「みなさん!」
彼は叫びました。
「僕が破滅したことはわかってます。でも、彼女は? 彼女のことを教えてください、おねがいです。彼女も僕の道連れで破滅するんじゃないでしょうね? だって彼女は無実なんだ。ゆうべ彼女が『みんなあたしが悪いんです』なんて叫んだのは、気が動転していたからなんです。彼女には何の、何の罪もありません! 僕はあなた方といっしょにいながら、夜どおし悲しい思いをしていました・・・・これから彼女をどうなさるのか、教えてくれませんか、だめですか?」
「その点ならまったくご安心ください、ドミートリイ・フョードロウィチ」
すぐに検事が、見るからに急きこんだ様子で答えました。
「今のところわれわれとしては、あなたがそれほど心配しておられるご婦人に、たとえ何事にせよ、ご迷惑をおかけするような重大な理由は何ら持ち合わせておりません。事件の今後の段階においても、同じことだろうと期待しています・・・・むしろ反対に、その点ではわれわれとしてできるかぎりのことはいたすつもりですから。十分ご安心ください」
「みなさん、感謝します。何はともあれ、とにかくあなた方が誠実な公平な人であることは、ちゃんとわかっていましたよ。あなた方は心の重荷を取りのけてくれたんです・・・・さ、今度は何をするんです? 僕はもう覚悟してますから」
「そう、少し急ぎませんとね。ただちに証人の尋問に移らねばなりません。これはどうしてもあなたの立会いのもとに行う必要があるんです。というのは・・・・」
あとでわかるのかもしれませんが、この「というのは・・・・」の後は何でしょうか、想像もつきません。
「その前にお茶を飲みませんか?」
「ネリュードフ」がさえぎりました。
「お茶くらい飲んでも罰は当らないでしょう!」
署長の「マカーロフ」はきっと《お茶でも飲みに》行ったにちがいないので、もし階下にお茶の支度ができていれば、一杯ずつ飲んで、そのあと《せっせと続ける》ことに決まりました。
本式のお茶と《軽く一口》やるのは、もっと暇な時間まで延ばすことにしました。
階下では本当にお茶が支度されていましたので、すぐに二階に運ばれました。
最初「ミーチャ」は、「ネリュードフ」が愛想よくすすめてくれたお茶を辞退しましたが、やがて自分から所望し、むさぼるように飲み干しました。
概しておどろくほど疲れきった様子をしていました。
物語の英雄のような彼の体力からみて、どんちゃん騒ぎや、たとえそのあと極度のショックがあったにせよ、一晩くらい何ということはないような気がするのですが、彼は坐っているのがやっとで、ときおりはあらゆるものが目の前で動きだしたり、ぐるぐるまわったりしはじめるのを、自分でも感じていました。
今はもう朝ですので「ドミートリイ」は徹夜したことになりますし、その前の日は金策でいろいろな人に会い、「セッター」をたずねて小旅行し、一酸化炭素事件もあったりしてあまり寝ていないと思いますし、父親が死んだことや、尋問や、なによりも「グルーシェニカ」をめぐって自殺するしないの一転二転の展開もありましたので、肉体的精神的に疲れきっていることでしょう。
『もう少しすると、きっと、うわごとを言いだすぞ』
彼はひそかに思いました。

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