「僕はやめた、もうまっぴらだ。たくさんですよ!」
ついに「ミーチャ」は怒りだしました。
「それにしても、やはりふしぎですね、広場のいったいどの辺にその・・・・お守り袋とやらを棄てたか、すっかり忘れてしまうなんて」
実際にはそういうような時、つまりあることで頭の中がいっぱいである時、自分のしている行為がどういうものであるかも意識しないことがあるかもしれません、作者は「ドミートリイ」が袋をどこに棄てたかもわからないとしているのもそういうことだと思います、しかし、一瞬ならともかく彼はずっと歩いており、棄てたということも意識していますので、どの辺に棄てたかはだいたいわかるのではないでしょうか。
「明日、広場の掃除でも言いつけるんですね、見つかるかもしれませんよ」
この袋が見つかれば、彼の言い分の正当性がある程度は保証されると思いますので、検事はその袋を誰かが処分する前に探すよう指示すべきでしょう。
「ミーチャ」はせせら笑いました。
「もうたくさんだ、みなさん、いい加減にしてくださいよ」
疲れきった声で彼は言いきりました。
「僕にははっきりわかる。あなた方は僕を信じてくれなかったんだ! 何一つ、これっぱかりも! 僕がわるいんだ、あなた方の罪じゃない、なにも口をはさむ必要はなかったんだから。なぜ、どうして僕は自分の秘密を打ち明けたりして、恥をさらしたんだろう! あなた方にとっちゃ、あんなものはお笑いぐさなんだ。目を見りゃわかりますよ。あなたが僕を陥れたんだ、検事さん! なんなら、勝利の歌でもうたうといい・・・・あなたなんぞ、呪われるがいいんだ、拷問者め!」
「ドミートリイ」は「あなた方の罪じゃない」と言っていますが、検事たちの細かい質問の意図について彼はその意味がわかっていないようです。
彼はうなだれ、両手で顔を覆いました。
検事と予審調査官は沈黙していました。
しばらくすると彼は頭を上げ、なにか思考力をなくしたような様子で二人を眺めました。
その顔はもはや取り返しのつかぬほど決定的なものとなった絶望をあらわしていましたし、彼は妙にひっそりと黙りこんで坐り、放心したような感じでした。
それでも用件は片づける必要がありました。
ただちに証人の尋問に移らねばなりませんでした。
もう朝の八時頃でした。
蝋燭はすでにだいぶ前に消されていました。
尋問の間じゅう部屋に入ったり出たりしていた署長の「マカーロフ」と、「カルガーノフ」は、今度は二人とも出て行きました。
検事と予審調査官も極度に疲れきった様子をしていました。
訪れた朝はどんよりしており、空は一面の雲にとざされ、雨がたたきつけるように降っていました。
「ミーチャ」はぼんやり窓を見つめていました。
「ちょっと窓の外を見てもいいですか?」
だしぬけに彼は「ネリュードフ」にだずねました。
「ええ、いくらでも」
相手は答えました。
「ミーチャ」は立ちあがり、窓のところに行きました。
雨は小さな薄緑色の窓ガラスをはげしく打っていました。
雨が降っているなら公園の掃除もないかもしれませんね。
窓のすぐ下にぬかるみの道が見え、その先には雨でいちだんとくろずみ、哀れさを増した、どすぐろい、貧しい、みすぼらしい百姓家が、雨靄の中に並んでいました。
「ミーチャ」は《金色のポイボス》のことや、その最初の光とともにピストル自殺するつもりだったことを思いだしました。
『たぶん、こんな朝のほうがふさわしかったかもしれないな』
彼は苦笑し、突然、片手を上から降りおろして、《拷問者》たちをふりかえりました。

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