「俺はお前を知ってるぞ」
いきりたって彼は叫びました。
「ちゃんと知ってるんだ」
「コーリャ」はまじまじと相手を見つめました。
この男といつ喧嘩か何かをしたのか、なぜか思いだせませんでした。
しかし、往来で喧嘩するのは毎度のことで、相手を全部おぼえているわけにはいきませんでした。
「知ってるって?」
彼は皮肉にたずねました。
「俺はお前を知ってるぞ! ちゃんと知ってるんだ!」
町人はばかみたいにくりかえしました。
「そのほうが好都合だ。さ、暇がないんでね、あばよ!」
「なんだってわるさをしやがるんだ?」
町人はわめきたてました。
「またわるさをしてるんだな? お前のことは知ってるんだ。またわるさをしてやがるんだろう?」
「おい、兄さん、僕がわるさをしようと、あんたの知ったことじゃないだろう」
立ちどまり、なおもじろじろと相手を眺めながら、「コーリャ」は言いました。
「俺の知ったことじゃないだと?」
「そうさ、あんたの知ったことじゃないよ」
「じゃ、だれに知ったことだ? だれの? え、だれのだよ?」
「そりゃね、兄さん、今やトリフォン・ニキーチッチの問題で、あんたには関係ないんだよ」
「トリフォン・ニキーチッチとは、いったいだれのこった?」
相変らずいきりたってはいたものの、ばかまるだしのおどろきを見せて、若者は「コーリャ」を見つめました。
「コーリャ」はしかつめらしく相手を睨めまわしました。
「昇天祭には行ったのかい?」
突然、念を押すようにきびしく「コーリャ」がだずねました。
「昇天祭って何だよ? 何しに? いや、行かなかったよ」
若者はいささか毒気をぬかれました。
「サバネーエフを知ってるだろうね?」
さらに念を押すように、いっそうきびしく、「コーリャ」はつづけました。
「サバネーエフって、だれだよ? いや、知らんよ」
「それじゃ、まるきり相手にならんよ!」
まるで、「サバネーエフ」さえ知らぬような間抜けとは口をきくのも沽券にかかわるとでもいうように、「コーリャ」は突然ぴしりと言いすて、急に右手に向きを変えるなり、足早に歩きだしました。
「待てよ、おい! サバネーエフってのはだれなんだ?」
若者はわれに返って、またもや興奮しはじめました。
「あいつは何のことを言ったんだい?」
ふいに彼は物売り女たちをふりかえり、愚かしげに眺めました。
この男、つまり「突然、町の商店のアーケードの下から、理由もわからずに憤慨した、一人の店員風の男がとびだしてき」た男のエピソードは必要ないのではないでしょうか、今までの緊張感はどこに行ったのでしょう、ここで一休みしてページを稼いでいるのでしょうか。

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