2018年10月3日水曜日

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二 痛む足

それらの中でも一番目の用事は、「ホフラコワ夫人」の家にあったので、彼はなるべく早くそれを片づけて、「ミーチャ」のところに遅れぬようにするため、道を急ぎました。

「ホフラコワ夫人」はもう三週間ばかり前から加減がわるかったのです。

なぜか片足が腫れ上がり、床についてこそいませんでしたが、それでも昼間は、魅力的な上品なガウン姿で私室の寝椅子に半ば横たわっているのでした。

「アリョーシャ」はあるときふと、「ホフラコワ夫人」が病気の身にもかかわらず、かえってお洒落になり、さまざまなヘア・アクセサリーや、リボンや、カーディガンなどが現れるようになったことに気づいて、ひそかに他意のない微笑をうかべました。

そんな考えを下らぬものとして斥けはしたものの、彼は夫人のそのお洒落の理由が読めていました。

このふた月ほど、他の客たちの間にまじって、例の「ペルホーチン」青年が足しげく「ホフラコワ夫人」を訪ねるようになっていたのです。

二人のことは(777)で「それにしても、もし今書いたこの若い官吏とまだそれほどの年でもない未亡人との異常な出会いが、のちにこの正確で几帳面な青年の出世の足がかりとなったりしなければ、わたしとてこんな瑣末な、エピソード的な細事をくわしく述べたりしなかったでしょう。この話はいまだにこの町では驚嘆まじりの思い出の種になっていますし、ことによるとわれわれも、カラマーゾフの兄弟の長い物語をしめくくったあと、特に一言触れるかもしれません。」と書かれています。

「アリョーシャ」はもう四日ばかり訪ねていませんでしたので、家に入ると、まっすぐ「リーザ」のところに急ごうとしかけました。

それというのも用事は彼女のところでしたので、実は「リーザ」が昨日、小間使をよこして、『とても重大な事情のため』すぐに来てほしいとたって頼んできたのであり、それがいくつかの理由から「アリョーシャ」の興味をひいたのでした。

しかし、小間使が「リーザ」のところへ取次ぎに行っている間に、「ホフラコワ」夫人はもうだれかから彼の来訪をききつけ、《ほんの一分だけ》寄ってくれるようにと、すぐに言ってよこしました。

「アリョーシャ」は、母親の頼みを最初に叶えるほうが利口だ、と判断しました。

でないと、「リーザ」の部屋にいる間、ひっきりなしに迎えをよこすにちがいないからです。

「ホフラコワ夫人」はなにか特に華やかな服装で、寝椅子に横たわっており、見るからに、極度に神経をたかぶらせている様子でした。

彼女は「アリョーシャ」を喜びの叫びで迎えました。

「まあ、ほんとにずいぶんしばらくお目にかかりませんでしたわね! まる一週間になりますもの、どうでしょう、まあ。もっとも、あなたがいらしたのは四日前の、水曜でしたわね。リーズのところへいらしたんでしょう、あたくしに気づかれないよう、忍び足でまっすぐあの子のところに行くおつもりでしたのね、わかっていますわ。ねえ、アレクセイ・フョードロウィチ、あの子がどれだけあたくしに心配をかけるか、わかっていただけたらと思いますわ! でも、この話はあとにしましょう。いちばん大切な話には違いありませんけど、あとにしましょう。ねえ、アレクセイ・フョードロウィチ、リーザはあなたにすっかりお任せしますわ。ゾシマ長老の亡くなられたあと–主よ、あの方の御霊に安らぎを! (夫人は十字を切った)、あの方の亡くなれれたあと、あたくし、あなたをスヒマ僧として見ておりますのよ、もっともその新しい服装もあなたにはとてもよくお似合いですけれど。どこでそんな上手な仕立屋を見つけなさいましたの? いいえ、いいえ、そんなの大事なことではありませんわ、そのお話もあとで。ごめんなさい、時々あなたをアリョーシャなんて心安だてにおよびしてしまいますけど、こんなお婆さんですもの、何事も大目に見ていただけますわね」

彼女の話はとても《ほんの一分だけ》で終わらないでしょう。


彼女はコケティッシュにほほえみました。


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