「でも、そのお話もあとにしましょう。肝心なのは、大切なお話を忘れないようにすることですわ。あたくしがちょっとでも脱線しかけたら、あなたのほうで注意して、『大事な話は?』と、おっしゃってくださいませね。ああ、でも何が今や大事な話か、どうしてこのあたくしにわかりますかしら! リーザがあなたとのお約束を、アレクセイ・フョードロウィチ、あなたと結婚するという子供っぽいお約束を取り消して以来、もちろんあなたは、あんなことがみな車椅子に永いこと坐りどおしだった病気のあの子の、子供っぽいたわむれの空想でしかなかったことを、理解してくださいましたわね。もっとも、おかげさまで、あの子も今では歩けるようになりましたけど。あなたの不幸なお兄さまのために、カーチャがモスクワからよんでくださった、あの新しいお医者さまが・・・・そう言えばあのお医者さまも今日は・・・・まあ、どうして明日の話なんかを! 明日のことを考えただけで、あたくし死にそうになりますわ! 何より、好奇心のために・・・・つまり一言で言うと、あの先生が昨日うちにいらして、リーズを見てくださいましたの・・・・往診料としてあたくし、五十ルーブル差し上げましたのよ。でも、そんなことはどうでもいいんです、また見当違いの話を・・・・ごらんのとおり、あたくし今やすっかり混乱してしまいましたわ。あたくし、あせっているんです。あせっている理由ですか? わかりませんわ。あたくしこのごろ、ひどく何もかもわからぬようになってしまって。あたくしにとっては、何もかもがごっちゃになって一つの塊になってしまいましたのよ。あなたが退屈のあまり、いきなりここからとびだしていらっしゃりはしないかと、心配ですわ。やっとお目にかかれたばかりですのに。あら、どうでしょう! ぼんやり坐っているなんて、何よりはまずコーヒーですわね。ユーリヤ、グラフィーラ、コーヒーをちょうだい!」
あいかわらず「ホフラコワ夫人」の話は要領を得ないですね、しかしここで、「カテリーナ」が裁判のためにモスクワからよんだ医者が「リーズ」を往診したことが書かれています、この医者が「イリューシャ」も往診したのですよね、そしてまた「リーズ」は歩けるようになったようですね。
「アリョーシャ」は急いで礼を言い、たった今コーヒーを飲んだばかりだからと告げました。
「どちらで?」
「アグラフェーナ・アレクサンドロヴナのところです」
「あの・・・・あの女のところで! まあ、あの女がみんなを破滅させたんですのよ。もっとも、あたくしは存じませんけれど、あの女も遅ればせながら、聖女になったという噂ですわね。それくらいならいっそ、もっと前に、必要なときにそうなればよかったんですのにね。今ごろ何になるんですの、何の得に? いえ、何もおっしゃらないで、アレクセイ・フョードロウィチ、だってあたくし、お話ししたいことが山ほどありながら、結局何一つ言わずじまいになりそうな気がするんですもの。あの恐ろしい裁判・・・・あたくし必ず参りますわ、心構えはできています、車椅子で運んでもらいますもの。それに、坐っている分には大丈夫ですし、付添いの者もおりますしね。だってご存じのとおり、あたくしは証人の一人ですもの。あたくし、どう言えばいいんでしょう、どう言えば! 何を話すのか、あたくしにはわかりませんわ。だって、宣誓しなければいけないんでしょう、そうなんでしょう、そうですわね?」
「聖女」とは何でしょう、調べましたが適切な説明を見つけることができませんでした、一般的に言う洗礼を受けたということでしょうか。
「そうです、でも出廷なされるとは思えませんけれど」
これは妙な発言ですね、たとえば「出廷できるようには見えませんけれど」というのならわかりますが。

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