2018年12月18日火曜日

992

「当たり前だ」

「イワン」は憎さげに唸りました。

「お前は俺の本性にひそむいっさいの愚劣なものや、とうの昔に生命を失い、俺の頭の中で粉砕されて、腐肉にように捨て去られたものを、何か新しいものみたいに俺に捧げようとするんだからな!」

確かにそう思いますが、なぜ「悪魔」はそんなことをするのでしょう、そんなことの中に「悪魔」が共感するような何かが含まれていたということでしょうか。

「これも気に入らなかったか! でも僕は、例の天上の《ホサナ》なんて文学的な描写で、君の機嫌をとりむすぼうと思ったんだけどな。実際、出来ばえはまんざらでもなかったじゃないか? それに、今しがたのハイネ風の風刺的な調子だってさ、そうだろう?」

「ハイネ」は「[生]1797.12.13. ジュッセルドルフ[没]1856.2.17. パリドイツの詩人,評論家。貧しいユダヤ人商人の子として生れ,ハンブルクの叔父のもとで銀行業務の見習いをしたのち,ボン,ゲッティンゲン,ベルリンの各大学で法律,文学,哲学を学びながら本格的な文学活動に入った。2人の従妹に対する悲恋などを歌った詩集『歌の本』 Buch der Lieder (1827) ,風刺的な紀行文集『旅の絵』 Reisebilder (26~31) などを発表,文名を高めた。 1830年春に喀血,七月革命の知らせを聞き,翌年パリにみずから亡命,新聞,雑誌への寄稿などによりドイツ,フランス相互の文化交流に努めた。ドイツを批判した評論『ロマン派』 Die Romantische Schule (34) ,『ドイツの宗教と哲学の歴史』 Zur Geschichte der Religion und Philosophie in Deutschland (34) により,35年,ハイネと仲間の「若きドイツ」派はドイツ連邦議会により著作発表を禁止されたが,以後も『アッタ・トロル』 Atta Troll (43) ,『ドイツ・冬物語』 Deutschland,ein Wintermärchen (44) など反動ドイツを批判風刺する詩作品を発表,精力的な活動を続けた。脊椎をおかされ,48年頃から病床に伏す身となったが,物語詩集『ロマンツェーロ』 Romanzero (51) などを書き続けた。」とのこと。

「いや、俺は一度だってそんな下男になり下がったことはないぞ! なぜ俺の魂が、お前のような下男を生みだしえたんだろう?」

「ねえ、君、僕はさるきわめて魅力的な、愛すべきロシアの若い貴族を知っているんだよ。若い思想家で、文学と芸術の大の愛好家で、『大審問官』と題する将来性豊かな叙事詩の作者なんだ・・・・僕はその青年のことしか念頭になかったんだよ!」

なるほどつまり、この「悪魔」は『大審問官』を契機に生まれてきたのでしょうか。

「『大審問官』の話をすることは許さないぞ」

羞恥に顔を真っ赤にして、「イワン」は叫びました。

「じゃ、『地質学的変動』は? おぼえているだろう? あれこそまさに叙事詩ってもんだ!」

「イワン」が『地質学的変動』という本?を書いたのは知りませんでした。

「黙れ、さもないと殺すぞ!」

「この僕を殺すってのかい? いや、わるいけど、すっかり言わせてもらうよ。僕が来たのも、この楽しみを味わうためなんだからね。そう、僕は人生の渇望にふるえる若い情熱的な友人たちの思索が大好きなんだ! 『そこには新しい人たちがいる』君はこの春、ここへ来る支度をしながら、こう断定した。『彼らはすべてを破壊して、人肉を食うことから出発しようと考えている。愚か者め、この俺にたずねもしないで! 俺に言わせれば、何一つ破壊する必要はない。必要なのは人類の内にある神の観念を破壊することだけだ、まさにそこから仕事にとりかからねばならないのだ! それからはじめなければいけない-ああ、何一つ理解せぬ盲者どもよ! いったん人類が一人残らず神を否定しさえすれば(その時期は、地質学上の時期と並行して、必ずくると、俺は信じている)、あと人は人肉など食わなくとも、ひとりでに、旧来のあらゆる世界観や、そして何よりも、旧来のいっさいの道徳が崩壊し、すべて新しいものが訪れるだろう。人間は、人生の与えうるすべてのものを手に入れるために結合する。しかしそれは必ず、単にこの世界での幸福と喜びのためにほかならない。人間は神のような、巨人のような誇りの精神によって傲慢になり、やがて人神が出現する。自己の意志と科学とによって、もはや際限なく自然をたえず征服してゆきながら、人間はほかならぬそのことによって、天上の喜びというかつての希望にとって代るくらい高尚な喜びを、たえず感ずるようになるだろう。人間はやがて死ぬ身であり、復活もないことを、だれもが知り、神のように誇らしげに冷静に死を受け入れるようになる。人間は人生が一瞬にすぎぬなどと嘆くにはあたらぬことを、誇りの気持からさとり、もはや何の報酬もなしに同胞を愛するようになる。愛が満足させるのは人生の一瞬にすぎないが、その刹那性の自覚だけで愛の炎は、かつて死後の不滅の愛という時期に燃えさかったのと同じくらい、はげしく燃え上がることだろう』・・・・まあ、こういった調子だったね。すばらしいじゃないか!」


「イワン」が書いた『地質学的変動』の内容を説明しています、「人肉を食うことから出発しようと考えている」とは、自然に帰ってという思想のことですね、しかし彼は何一つ破壊する必要なく、地質学上の時期と並行して、人類が一人残らず神を否定する時が来て、幸福と喜びを得て、ユートピアが出現するというようなことを言っています、これはある時期に、何もしないでも、そういう時代が来ると言うことでしょうか、それとも神を否定する思想が蔓延してそうなるというのでしょうか。


0 件のコメント:

コメントを投稿