2019年1月14日月曜日

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しかし、「カテリーナ・イワーノヴナ」は与えられた質問の一つに答えて、すすんで最初から、自分が被告の婚約者であったことをはっきり申し述べ、「あの人自身があたくしを見棄てたときまで、ではございますけれど」と小さい声で言い添えました。

親戚に郵送するために「ミーチャ」に預けた三千ルーブルのことを質問されると、彼女はしっかりした口調で言いきりました。

「あたくしはすぐに郵送してもらうつもりで、お預けしたのではございません。あのときあたくし、あの人が、あの瞬間、とてもお金が必要だったのを予感しておりました・・・・あたくしはあの三千ルーブルを、よかったらひと月以内に送ってくれるようにという約束で、あの人にお預けしたのです。ですから、あの人があとであんな借金のことでご自分をあれほど苦しめる理由なぞなかったのです・・・・」

この証言の本意はどういうことでしょうか、惨劇が起こったことに対する自己弁護でしょうか、「カテリーナ」の性格からすればそんなことはないと思いますが、それとも、「ひと月以内」にというのは嘘ですので、「ドミートリイ」の責任感の強さを強調する意図でそんなことを言ったというのが本意でしょう。

わたしはすべての質問や、彼女の答えを正確に伝えるつもりはありません。

ただ、彼女の証言の本質的な意味を伝えるだけにとどめよう。

「あの人がお父さまから受けとりしだい、いつでもあの三千ルーブルを送ってくださるものと、あたくしは固く信じておりました」

質問に答えて、彼女はつづけました。

「あたくし、あの人の無欲と正直さ・・・・金銭面での・・・・この上ない正直さとを、かねがね信じておりました。あの人はお父さまから三千ルーブルもらえると固く信じてらして、何度かあたくしにその話をなさったものです。お父さまとの間にいざこざのあったことは、あたくしも存じておりましたし、それまでも常に、あの人がお父さまに煮え湯を飲まされたことを信じていました。あの人がお父さまに言った脅し文句など、全然おぼえておりません。少なくともあたくしの前では、何一つ、どんな脅し文句も言ったことがございませんでした。もしあのときいらしてくださってたら、あたくしのご用立てしたあの不幸な三千ルーブルのためのご心配なぞ、すぐに鎮めてさしあげましたのに、あの人はその後お見えにならなかったんです・・・・それにあたくし自身は・・・・あの人をおよびできないような・・・・立場に置かれていましたし・・・・それにあたくしは、あの人に対して、返済を要求する権利などまったく持っておりませんでした」

だしぬけに彼女はこう付け加えました。

その声に何か決然としたひびきが感じられました。

「あたくし自身、かつてあの人から、三千ルーブルよりずっと多額のお金を拝借したことがあるのです。しかも、そのときは、将来いつかそのお金をお返しできるようになるという予測さえ立たなかったのに、拝借したのです・・・・」

彼女の口調には何か挑戦的なひびきが感じとれました。

まさにその瞬間、質問が「フェチュコーウィチ」に移りました。

「それはまだ、この町での話ではなく、お知合いになった最初のころのことですね?」

「フェチュコーウィチ」がとっさに何か好もしい結果を予感して、慎重な態度で、相手の言葉を引きとりました。

(括弧つきで指摘しておくが、彼はある程度まで当のカテリーナ・イワーノヴナによってペテルブルグから招かれた身であったにもかかわらず、まだ向うの町にいたころミーチャが彼女に与えた五千ルーブルや、《額を地につけるほどの最敬礼》のエピソードを、やはり何一つ知らなかった。彼女はその話を弁護人にしないで、隠していたのだ! これもふしぎな話だった。確信をもって想像しうることだが、彼女自身も最後のこの瞬間まで、自分が法廷でこのエピソードを話すかどうかわからず、何かの霊感を待っていたのであろう)

この括弧書きは、作者が傍聴人である語り手に言わしめているのですが、何を言いたいのか真意が分かりかねます。

(彼はある程度まで当のカテリーナ・イワーノヴナによってペテルブルグから招かれた身)と語り手は言っていますが、(ある程度)とは(921)の「アリョーシャ」と「グルーシェニカ」の会話にある「・・・・だって、三千ルーブルも払ってペテルブルグから招いたというんでしょう」「あの三千ルーブルは、僕と、イワン兄さんと、カテリーナ・イワーノヴナの三人で出したんですが、モスクワの医者はあの人お一人で二千ルーブル出してよんでくれたんです。弁護士のフェチュコーウィチも、もっと多く取りたいところでしょうが、この事件はロシア全土に反響をよんで、どの新聞や雑誌でも書きたてているもんだから、フェチュコーウィチもむしろ名声のために弁護を承諾したんですよ、なにしろあまりにも有名な事件ですからね。僕は昨日会ってきました」というところを正確に捉えての表現ですね。

そう、わたしはあの瞬間を決して忘れることができない! 

彼女は話しはじめました。

彼女は何もかも(四字の上に傍点)話しました。

「ミーチャ」がかつて「アリョーシャ」に物語ったあのエピソードを、《額を地につけるほどの最敬礼》のことも、その原因も、自分の父のことも、「ミーチャ」を訪問したことも、全部話し、「ミーチャ」自身が彼女の姉を介して《金をとりにカテリーナ・イワーノヴナをよこすよう》申し入れたことについては、ただ一言も、ちょっとしたほのめかしによっても触れませんでした。

彼女は深い思いやりからそれを隠したのであり、自分があのとき何事かを予期し・・・・金を借りるために、衝動にかられて自分から若い将校の下宿に駆けつけたことを、明るみに出すのを恥じませんでした。

これは一種ショッキングな出来事でした。


「カテリーナ」は自分のことは考慮に入れず、「ドミートリイ」を助けようとしていますね、まるで「肉を切らせて骨を断つ」ということですね、捨て身の戦いです。


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