わたしはききながら寒気をおぼえて、ふるえていたし、法廷は一言もききもらすまいと、静まり返っていました。
ここには何かかつて例を見ぬものがありました。
だから、たとえ彼女のような、わがままな、人を人とも思わぬ傲慢な娘からでさえ、これほど率直な証言を、これほどの犠牲を、このような自己犠牲を期待するのは、ほとんど不可能に近かったのであります。
文章の続き具合がよくわかりません、「だから」とは何を指すのでしょう、文章の意味としては、法廷の雰囲気の特殊性はどんな人間からでも内心に正直な証言はむずかしいということでしょうか、それにしても傍聴席にいる語り手は「カテリーナ」のことを「わがままな、人を人とも思わぬ傲慢な娘」と思っているということが意外でした。
それも何のために、だれのために? 自分を裏切り侮辱した男を救うためになのです。
その男を救うためにせめて何かで少しでも役に立ち、その男に有利な印象をもたらそうというのです!
事実また、人生で残されたすべてである最後の五千ルーブルを気前よく与えて、清純な娘の前にうやうやしく一礼した将校の姿は、きわめて共感をよぶ魅力的なものに映じました。
しかし・・・・わたしは痛いくらい胸がしめつけられました!
あとになって中傷が生れかねぬことを感じたからです(そして後日はたして中傷が生れた!)
のちに町じゅうの人が意地わるくせせら笑いながら、おそらくあの話は全部が正確なわけではあるまい、特に将校が《うやうやしく一礼しただけで》生娘を手放したという個所は怪しい、と噂し合いました。
あそこは何かしら《省略されて》いると、人々は仄めかしました。
「かりに省略がなく、すべてが本当だとすると」
もっとも尊敬すべき上流夫人たちまで、こう言うのでした。
「そうなるといっそう腑におちませんわね。たとえば父親を救うためとはいえ、若い娘がそんな振舞いをするなんて、あまりほめた話じゃございませんでしょうに?」
それにしても、あれほどの知性をそなえ、病的な洞察力をそなえた「カテリーナ・イワーノヴナ」が、こんな噂の生ずることを、前もって予測しなかったのだろうか?
きっと予測してはいたのだが、すべてを話そうと決心したのにちがいない!
言うまでもなく、話の真相に対するこうした汚らしい勘ぐりが生れたのは後日のことで、最初の瞬間はあらゆる人が心を打たれました。
裁判官たちに関して言うなら、彼らはうやうやしい、ほとんど恥ずかしそうな沈黙を守って、「カテリーナ・イワーノヴナ」の話をききとりました。
検事はこの話題についてそれ以上、質問一つ発することさえ遠慮しました。
「フェチュコーウィチ」は深々と彼女に一礼しました。
ああ、彼はほとんど凱歌をあげんばかりだった!
収穫は大きかったのです。
高潔な衝動にかられて最後の五千ルーブルを気持よく与える男、同じその男がのちに三千ルーブル奪う目的で、夜中に父親を殺す-これはかなり辻褄の合わぬ話でした。
少なくともこれで「フェチュコーウィチ」は、せめて強盗罪だけでも除くことができたのです。
《事件》は突然、何か新しい光に包まれました。
何かしら「ミーチャ」に有利な、同情的な空気が流れました。
一方、その彼は・・・・彼は「カテリーナ・イワーノヴナ」の証言中に一、二度、席から立ちあがりかけ、それからまたベンチに腰をおとして、両手で顔を覆った、という話でした。
しかし、彼女が証言を終えると、彼は両手を彼女の方にさしのべながら、ふいに泣き声で叫びました。
「カーチャ、なぜ僕を破滅させたんだ!」
これは「ドミートリイ」にしてみれば、恥辱の上塗りをしたということでしょう。
そして、法廷じゅうにひびくほどの大声で泣きだそうとしかけました。
しかし、とたんに自分を抑えて、また叫びました。
「これで僕は判決を受けたんだ!」
この意味は「ドミートリイ」の倫理観ですので、彼だけにしかわかりませんね。
こう言ったあと、歯を食いしばり、両手を胸に十字に組んで、感覚を失ったように坐っていました。
「カテリーナ・イワーノヴナ」はそのまま法廷にとどまり、指示された椅子に坐りました。
彼女は青ざめ、目を伏せて坐っていました。
近くにいた人々の話だと、まるで熱病にかかったように永いこと全身をふるわせていたそうであります。
ついで「グルーシェニカ」が尋問を受けるために出廷しました。
わたしの話はしだいにあの、突然に起った破局に近づいていました。
ことによると、本当にあれが「ミーチャ」を破滅させたのかもしれません。
なぜなら、わたしの確信によると、いや、だれもが、法律家たちまでみな、あとでそう話していたのですが、あのエピソードさえ起らなかったら、被告は少なくとも情状酌量になったにちがいないからです。
しかし、その話はいますぐ述べます。
その前に「グルーシェニカ」について一言しておかねばなりません。

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