2019年1月16日水曜日

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彼女もやはり黒ずくめの服装をし、例の美しい黒いショールを肩にかけて、法廷に姿を現しました。

太った女性がときおりするように、軽く左右に身を揺すりながら、彼女は一度として右にも左にも目を向けず、ひたと裁判長を見つめたまま、足音のせぬ持ち前の歩き方で軽やかに証言台に近づきました。

わたしに言わせれば、その瞬間の彼女はたいそう美しかったし、あとで婦人たちが力説したように、青ざめてなぞいませんでした。

婦人たちはまた、彼女が何か思いつめた、怒ったような顔をしていた、と言い張ったものであります。

わたしが思うに、彼女は気が立っており、スキャンダルに貪欲な傍聴人の軽蔑的な好奇の眼差しを、苦しいほどわが身に感じていただけなのです。

この傍聴席にいる語り手は、「グルーシェニカ」に好意的なようですね。

彼女は軽蔑を堪えることのできぬ、誇り高い性格で、だれかに軽蔑されていると思っただけで、とたんに怒りと反抗心に燃えあがるタイプの人間でした。

それに加えてもちろん、気おくれも、またその気おくれに対する内心の羞恥もあっただろうから、彼女の話が、ときには怒ったような、ときにはさげすむような、ひどくぞんざいな口調になるかと思うと、またときには自分を責め、自分を非難する、誠実なしみじみした調子がふいにひびいたりしたのも、むりのない話であります。

ときおりは『どんな結果になろうと知っちゃいないわ、とにかく話すけどさ・・・・』と言いだげな、まるで奈落にでもとびこむような話し方をすることもありました。

「フョードル」との交際に関して、彼女は「ばかばかしい。あの人が言い寄ったのが、あたしの罪だとでも言うんですか?」と語気鋭くきめつけました。

が、その少しあとで、「みんな、あたしが悪いんです。あの二人を、あの老人とあの人をあたしがからかって、二人ともこんな羽目に追いこんでしまったんです。みんな、あたしのせいで起ったんです」と付け加えるのでした。

何かのはずみに話が「サムソーノフ」のことに触れると、彼女は「だれにも関係ないことだわ」と、すぐに不遜な口調で食ってかかりました。

「あの人はあたしの恩人です。あたしが両親に家から放りだされたとき、あの人ははだしのあたしを拾いあげてくれたんです」

もっとも裁判長は、きわめていんぎんな口調で彼女に、余計な細部に深入りせず、質問に率直に答えなければいけないと、注意しました。

「グルーシェニカ」は赤くなり、目がきらりと光りました。

金の入った封筒を彼女は見たことはなく、ただ「フョードル」のところに三千ルーブル入った封筒があることを、《悪党》からきいたにすぎませんでした。

「でも、ばかばかしくって。あたし笑ってやりましたわ。あんなところへ絶対に行くもんですか・・・・」

「今あなたが《悪党》とおっしゃったのは、だれのことですか?」

検事がたずねました。

「あの召使です。自分の主人を殺して、ゆうべ首を吊ったスメルジャコフのことです」

もちろん、すぐさま彼女は、それほど断定的に有罪とする根拠は何かと質問されましたが、彼女にも何の根拠もないことがわかりました。

「ドミートリイ・フョードロウィチが自分でそう言ったんです。あの人の言葉を信じてください。あの人を破滅させたのは、生木を裂くような真似をした女性ですわ。そうなんです。あの女一人がすべての原因なんです、そうですとも」

憎悪に全身をふるわせるかのように、「グルーシェニカ」は付け加えました。

その声には憎しみがひびいていました。

それはだれのことをさしているのかと、彼女はまたたずねられました。

「あのお嬢さんです。あそこにいるカテリーナ・イワーノヴナですわ。あのとき、あの人はあたしを家へよんで、チョコレートなんかご馳走してくれて、機嫌をとろうとしたんです。あの人には本当の羞恥心が欠けてるんです、そうですとも・・・・」

今度は裁判長がもはやきびしく彼女を制止して、言葉づかいをつつしむよう要望しました。

しかし、嫉妬深い女性の心はすでに燃えさかっており、彼女はたとえ奈落にでもとびこみかねぬ勢いでした・・・・

「モークロエ村における逮捕の際」検事が思いだして、たずねました。

「あなたが隣の部屋から駆けこんできて、『みんなあたしが悪いんです、あたしもいっしょに懲役に行きます!』と叫んだのを、みんながきき、見ております。


してみると、あの瞬間あなたはすでに、被告が父親殺しであるという確信を持っていたのですね?」


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