「あのときの自分の気持はおぼえていませんけれど」
「グルーシェニカ」が答えました。
「あのときはみんなして、あの人がお父さんを殺したと叫びだしたので、あたしは、これはあたしのせいだ、あたしが原因でお父さんを殺したんだ、と感じたのです。でも、あの人が自分は無実だと言ったとたん、あたしはすぐにそれを信じました。今でも信じていますし、これからも信じつづけます。嘘を言うような人じゃありませんもの」
質問が「フェチュコーウィチ」に移りました。
なかでも、彼が「ラキーチン」のことや、《アリョーシャを連れてきたお礼》の二十五ルーブルのことを質問したのを、わたしはおぼえています。
「あの男がお金を受けとったからといって、べつにふしぎじゃありませんわ」
軽蔑的な憎しみをこめて、「グルーシェニカ」は鼻で笑いました。
「あの男はいつもあたしのところへ金をせびりに来ていたんですもの。月に三十ルーブルずつ持って行ったこともよくありました。たいてい、わるい遊びに使うんです。飲んだり食べたりするお金なら、あたしにもらわなくても、持っていたんですから」
「グルーシェニカ」は全部正直に言ってしまいましたね、「わるい遊び」というのは、(674)で私は「『ラキーチンは裏街へ行ってしまった』というのはどういうことでしょう、「くるりと別の通りに曲りました」と書かれていましたが、それが裏街の方なのでしょうか。」と書きましたが、これも伏線でしたね、また(661)で「グルーシェニカ」は「ラキーチン」のことを「あんたなんか、きのこみたいな存在だけれど」と言っていました。
「どういうわけで、あなたはラキーチン氏にそれほど気前よくなさったんです?」
裁判長がひどくもじもじしているにもかかわらず、「フェチュコーウィチ」はすかさず追討ちをかけました。
「だって、あの男はあたしの従兄ですもの。あたしの母と、あの男の母親とは実の姉妹なんです。ただ、あの男はいつもこの町のだれにもそのことを言わないでくれと、あたしに頼んでいました。あたしのことを、ひどく恥じていたんですわ」
「ラキーチン」の秘密を全部喋りましたね、それにしても、彼は「グルーシェニカ」の家にしょっちゅういたのですから、町の人もそのことには気づいているはずだと思いますが、どう思っていたのでしょう。
この新事実はだれにとってもまったく思いがけぬものであることがわかりました。
町じゅうの者はもとより、修道院でさえ、だれ一人これまでそのことを知りませんでしたし、「ミーチャ」ですら知りませんでした。
しかし「アリョーシャ」だけは知っていましたね、(261)で「アリョーシャ」は「ラキーチン」に「グルーシェニカ」のことを「ああ、そうだ、忘れてたよ、あの人は君の親戚だったね・・・」と言っています、これに対して「ラキーチン」は「親戚?グルーシェニカが僕の親戚だって?おい、気でも違ったのか?頭がイカれたんだな」と答えますが、「アリョーシャ」は「どうして?本当に親戚じゃないの?僕はそうきいてたけど」と言っています。
人々の話では、「ラキーチン」は恥ずかしさのあまり自席で真っ赤になったそうであります。
「グルーシェニカ」は、彼が「ミーチャ」に不利な証言をしたことを、法廷に入る前にどこからかきいて、そのために憎んでいたのでした。
「ラキーチン」氏の先ほどの名演説も、その高尚さも、農奴制やロシア市民社会の無秩序に対する弾劾も、ここにいたって全体の意見の中で、もはや決定的に抹殺され、消滅されてしまいました。
「フェチュコーウィチ」は満足でした。
ふたたび神が力を貸してくださったのです。
概して「グルーシェニカ」に対する尋問はさほど永くかかりませんでしたし、それにもちろん彼女も特に新しいことは何一つ告げられませんでした。
彼女は傍聴人にきわめて不快な印象を残しました。
彼女が証言を終えて、「カテリーナ・イワーノヴナ」からかなり離れた廷内に着席すると、数百の侮辱的な眼差しが彼女に注がれました。
彼女が尋問されている間、「ミーチャ」はまるで化石したように、目を床におとしたまま、終始沈黙していました。
「イワン」が証人として出廷しました。

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