証人の描きだした情景は陰惨な宿命的なものであり、《有罪説》を強力に裏付けるものでした。
彼は「ドミートリイ」の肩を少しは持つような陳述を行うのだと思っていましたが、まったくそうではないのですね、情より自分の利益ですね。
概して「ラキーチン」の陳述は、思想の独創性と、その飛躍ぶりの並みはずれた高尚さとで、傍聴人を魅了しました。
農奴制や、無秩序に苦しむロシアを論じた個所では、思わず二、三の拍手さえひびいたほどでした。
しかし、「ラミーチン」はなんといってもやはり若いので、ちょっとしたへまをやってのけ、それをすかさず弁護人が巧みに利用しました。
「グルーシェニカ」に関する一定の質問に答える際、彼は、もちろん自分でもすでに意識している成功と、大いに飛躍ぶりを示した高尚さに夢中になって、「アグラフェーナ・アレクサンドロヴナ」のことをいくぶん軽蔑的に《商人サムソーノフの妾》と表現してしまったのであります。
どうして《商人サムソーノフの妾》という表現がそれほど大きな失敗なのでしょうか、よくわかりません。
のちにこの一言を撤回するためになら、彼はどんな高価な代償でも払ったにちがいありません。
これは、かなり大きな失言のようですがどうしてでしょう。
なぜなら、「フェチュコーウィチ」がすぐさまこの一言で彼の挙げ足をとったからです。
これもすべて、相手がこれほど短時日のうちにこんな内密な細部にいたるまで事件に精通していたことを、「ラキーチン」がまったく計算に入れていなかったためにほかなりません。
「それではおたずねしますが」
自分が尋問する番になると、弁護人はきわめて愛想のいい、いんぎんなくらいの微笑をうかべて、切りだしました。
「あなたはもちろん、ここの教会管区の本部の出版になる『故ゾシマ長老の生涯』というパンフレットをお書きになった、あのラキーチン氏ですね? 深い宗教的な思想にみち、長老に対する敬虔なみごとな献詞を付したあのご本を、わたしも最近、たいへん感銘深く拝読したのですが」
「あれは出版するために書いたわけじゃないんです・・・・それがあとで本になってしまって」
「ラキーチン」はまるで何かにうろたえたように、ほとんど羞恥すら示して、つぶやきました。
「いえ、あれはすばらしいものです! あなたのような思想家なら、あらゆる社会現象にきわめて広範に対応できるでしょうし、また当然そうあるべきですよ。あなたのきわめて有益なご本は、長老さまのご加護によってとてもよく売れて、かなりの利益をもたらしましたからね・・・・ところで、何よりも、あなたにおたずねしたいのは、こういうことなんです。あなたはたった今、「スヴェトロワ」さんときわめて懇意な仲であると申立てなさいましたね?」(筆者注 グルーシェニカの姓が《スヴェトロワ》であることがわかった。わたしはこの日はじめて、審理の過程でそれを知ったのである)
この「筆者」は傍聴している語り手のことですね。
「僕は知人のすべてに責任を負うわけにはいきませんよ。僕はまだ若いし・・・・それに、出会う人間すべてに対して、いちいち責任を負うことなんぞできるもんですか」
「ラキーチン」は耳の付け根まで真っ赤になりました。
「わかります、わかりすぎるほどです!」
まるで自分のほうがどぎまぎして、大急ぎであわててあやまるみたいに、「フェチュコーウィチ」が叫びました。

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