2019年1月6日日曜日

1011

「当時の青年のエリートたちを喜んで歓迎していました、若い美しい女性との交際に、あなたがほかのみなさんと同様、興味をいだくのは十分ありうることですね。しかし・・・・一つだけおたずねしたいのです。われわれの知っているかぎりでは、スヴェトロワさんは二カ月ほど前、カラマーゾフ家の末息子であるアレクセイ・フョードロウィチと近づきになることを切に望んで、あなたが彼を、それも当時の僧服姿のまま連れてきさえすれば、すぐにその場で二十五ルーブルお礼をすると約束したそうですね。やはりきくところによると、それが実現したのは、今度の事件の根本容疑となっている例の悲劇的な惨事によって終った、まさにあの日の晩だそうですが。あなたはスヴェトロワさんのところへ、アレクセイ・フョードロウィチを連れてゆき、その晩スヴェトロワさんから褒美の二十五ルーブルをもらいましたね。この点をおたずねしたいと思いまして」

「あれは冗談だったんです・・・・なぜそんなことに興味を持たれるのか、わかりませんね。僕は冗談に受けとったんです・・・・それも、あとで返すつもりで・・・・」

「とつまり、金は受けとったわけですな。しかし、いまだに返していませんね・・・・それとも返したんですか?」

「そんな下らないことを・・・・」

「ラキーチン」はつぶやきました。

「そんな質問にはお答えできません・・・・もちろん、返しますとも」

裁判長が割って入りましたが、弁護人は「ラキーチン」氏に対する質問が全部終ったと告げました。

「ラキーチン」氏はいささか面目をつぶして退場しました。

彼の演説の高尚さから受けた印象はやはり損なわれ、「フェチュコーウィチ」は彼を見送りながら、傍聴人にそのうしろ姿を指さして『あなた方の高尚な告白者は、こんな人間なんですよ』とでも言っているかのようでした。

この弁護士は容赦ないですね、自分を勝利に導くことの一点に集中して、他人の事情を考慮するなんてことはまるきりありません、こういう性格でなければ成功しないのでしょうが。

今でもおぼえていますが、このときも「ミーチャ」のエピソードなしにはすみませんでした。

「グルーシェニカ」について語った「ラキーチン」の口調に憤慨して、彼は自席から突然「ベルナールめ!」とどなったのです。

(932)で「ベルナール」が出てきて以来、「ドミートリイ」は「ベルナール」が好きですね、なんども「ベルナール」を口にしています。

「ラキーチン」に対する尋問がすべて終ったあと、裁判長が被告に、何か述べたいことはないかとたずねたとき、「ミーチャ」はよく透る声で叫びました。

「そいつは被告の僕からまで金を借りていきやがったんです! 軽蔑すべきベルナールめ、出世主義者め、神さまなんぞ信じていないくせに、長老を欺しやがって!」

そう言えば「ラキーチン」は修道院を行き来していて庇護されています、この意味で「長老を欺しやがって!」なのですね。

もちろん「ミーチャ」は言葉づかいの乱暴さをふたたびたしなめられましたが、「ラキーチン」氏はこれで止(とど)めを刺されました。

また、二等大尉「スネギリョフ」の証言も不首尾に終りましたが、これはもうまったく別の理由からでした。

彼はぼろぼろの汚れた服に、泥だらけの長靴をはいて出廷し、しかもあらゆる用心と事前の《鑑定》にもかかわらず、ふいにまったく泥酔していることが判明したのです。

「ミーチャ」から受けた侮辱について質問されると、彼はいきなり返答を拒否しました。

「あの方のことなぞ、もうようござんす。イリューシェチカがいけないと申しますので。神さまがあの世で償いをしていださいあすでしょう」

「だれが話しちゃいけないと言ったんですって? だれのことをおっしゃっているんです?」

「イリューシェチカです、息子です。『パパ、パパ、あいつはパパをずいぶんひどい目に会わせたんだね!』石のそばでこう言いました。あの子は今、死にかけておりますので・・・・」

「イリューシャ」が「話しちゃいけない」と言ったとのことですが、そのへんの経過を少し知りたいのですが。

二等大尉はだしぬけにわっと泣きだし、裁判長の足もとに思いきり泣き崩れました。

傍聴人の失笑の中で、彼は急いで連れだされました。

検事の用意しておいた印象はまったく生れませんでした。

弁護人はその後もあらゆる手段を用いて、微細な点にいたるまでこの事件に精通していることによって、ますます舌を巻かせました。

たとえば、「トリフォン」の証言にしても、非常に強い印象をもたらしかけましたし、もちろんそれは「ミーチャ」にとってきわめて不利なものでした。

「ミーチャ」が惨劇のひと月近く前、最初にモークロエに来たときに使った金が、三千ルーブル以下のはずはないと、彼は指を折らんばかりにして数えたのであります。


「三千ルーブルまでいかぬとしても、ほんのちょっと欠けるくらいでさあ。ジプシー女だけにでも豪勢にばらまきましたからね! うちの村の虱たかりの百姓どもにも、《五十カペイカずつ施しを垂れる》なんてものじゃなく、少なくとも二十五ルーブル札をくれてやってましたから。それ以下ってことはありませんでした。あのとき、百姓どもがどれだけ旦那から掠めとったことか! いったん盗みを働くと、もう指をくわえて引っこんじゃいませんからね。それに、ご自分でやたらに金をばらまいている以上、どうして泥棒をつかまえられますか! なにせ村の百姓どもは追剝ぎも同然で、魂なんぞ大事にしませんしね。それに、あんな田舎の娘っ子たちまで、ごっそりいただいちまって! あれ以来、村の連中はすっかり景気がよくなりましたよ、そうですとも。以前は貧乏だったのに」


0 件のコメント:

コメントを投稿