2019年1月7日月曜日

1012

一口に言えば、彼はいっさいの出費を思いだして、正確に計算してみせたのであります。

そんなわけで、使ったのは千五百ルーブルだけで、あとの半分はお守り袋に取り分けておいたという仮定は、まったく考えられぬものになりました。

「わたしは自分で見たんですから。旦那が三千ルーブルを端銭(はしたぜに)のようにわしづかみにしているのを、この目でしかと見とどけたんです。わたしらに金勘定ができないとでもお思いですか!」

「トリフォン」は必死に《お上》の気に入ろうと望んで、こう叫びました。

しかし、尋問が弁護側に移ると弁護人は証言をくつがえそうという試みはほとんどせず、藪から棒に、まだ逮捕のひと月ほど前、最初の豪遊の際に「ドミートリイ」が酔払って落とした百ルーブルを、馭者の「チモフェイ」ともう一人の百姓「アキム」がモークロエの玄関の土間で拾い、「トリフォン」に届けたところ、「トリフォン」が褒美に一ルーブルずつくれたという話をしはじめました。

これは(739)の「そういう彼自身、この前はシャンパンを半ダースほども猫ばばしたのだし、テーブルの下に落ちていた百ルーブル札を拾いあげて、拳に握りしめました。その札はそのまま握りっぱなしだったのです。」と書かれた部分のことでしょうか、そうならば馭者の「チモフェイ」ともう一人の百姓「アキム」がモークロエの玄関の土間で拾ったというのとは話が違いますね。

「ところで、そのときあなたはその百ルーブルをカラマーゾフ氏に返しましたか、返しませんでしたか?」

「トリフォン」は懸命にとぼけようとしていましたが、百姓たちが尋問されたあと、百ルーブルを見つけたことをついに認め、ただし、そのとき厳正に全部「ドミートリイ」の旦那にお返ししたと付け加え、「正直にお返ししましたが、当の旦那はあのときすっかり酔っておいででしたから、はたしておぼえておられるかどうかは怪しいもんです」と申し添えました。

しかし、証人である二人の百姓が尋問されるまで、とにかく百ルーブルの拾得を否定していたため、泥酔した「ミーチャ」に全額返したという証言も、当然のことながら、きわめて疑わしいものになりました。

こうして、検事側の申請したもっとも危険な証言の一人は、またしても怪しまれ、ひどく評判を落して引きさがったのであります。

ポーランド人たちの場合も、同じことが起こりました。

二人のポーランド人は毅然とした傲慢な態度で出廷しました。

そしてまず第一に、二人とも《国王陛下にお仕えしていた》ことや、《パン・ミーチャ》が自分たちの名誉を買おうとして三千ルーブルを提供しようとしたこと、その手に大金が握られていたのを自分たちもたしかに見たこと、などを大声で証言しました。

「パン・ムッシャローウィチ」は自分の話におそろしくポーランド語をはさみ、それが裁判長と検事の目に映る自分の値打ちを高めていることに気づくと、いよいよ意気さかんになり、もはやすっかりポーランド語で話すようになりました。

しかし、「フェチュコーウィチ」はこの二人も得意の罠にとらえました。

再度よびだされた「トリフォン」がいかにとぼけようとしても、やはり結局、自分の与えたカードが「パン・ヴルブレフスキー」によってすり換えられたことや、「パン・ムッシャローウィチ」がバンクを配りながら、カードを抜きとったことを、認めざるをえませんでした。

このことは、すでに「カルガーノフ」が自分の証言の際に、裏付けていたので、ポーランド人は二人ともいい恥をさらし、傍聴席の失笑まで買って引きさがりました。

その後も、もっとも危険なすべての証人だちが、ほとんど同じような目に会わされました。

「フェチュコーウィチ」はその一人ひとりを道義的にさらしものにし、すごすごと退廷させるのでした。

素人探偵や法律家たちは惚れぼれと見とれるばかりでしたが、ただやはり、これほど大きな決定的な罪状に対してこんなことが何の役に立つのだろうと、疑問に思っていました。

なぜなら、くりかえして言いますが、有罪説の反駁しがたさがますます悲劇的に強まってゆくのを、だれしも感じていたからであります。

しかし、人々は、《偉大な魔術師》の自信ありげな態度から、彼は落ちつきはらっているのを知り、《これほどの人物》がわけもなくペテルブルグから乗りこんでくるはずはない、むなしく手ぶらで退散するような人物ではないはずだと、期待していました。

(1006)で「彼は検事側のすべての証人たちの道義的な評判に泥を塗り、したがっておのずから彼らの証言にも泥を塗る手腕を示しました」と書かれていましたので、少し以下に「フェチュコーウィチ」が証人たちに塗った「泥」の部分だけまとめてみました。(③は自滅ですが)

① 「グリゴーリイ」は「フョードル」が「ドミートリイ」との勘定をごまかした件の根拠を示せなかった、三千ルーブルの封筒を見たことがない、純粋のアルコールをコップ一杯半も飲んだ、今年がキリスト降誕後何年であるかも知らない。

②「ラキーチン」は「グルーシェニカ」のことを《商人サムソーノフの妾》と表現した、「アリョーシャ」を僧服姿のまま「グルーシェニカ」の家に連れてきたので彼女から賭け金二十五ルーブルをもらった。

③二等大尉「「スネギリョフ」は泣きだして裁判長の足もとに思いきり泣き崩れた。

④「トリフォン」は「ドミートリイ」が落した百ルーブルをネコババした。

⑤ポーランド人たちはバンクでいかさまをした。


今のところは以上です。


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