この出来事は普通に考えると、「ヴォロホフ将軍の未亡人」に暴力を振るわれた「フョードル」にとって、屈辱的なことだと思いますが、彼はすべてを損得勘定で判断します。
「この問題全体を検討したあげく」この出来事は結局のところ、自分にとっては結構なことだと気付いたのです。
彼は子供たちに何の愛着もないのですから、厄介払いできてよかったとでも思ったのでしょう。
その後、老婦人側が子供たちの養育に関する正式な同意書を作成した際にも、「フョードル」は彼女の言うがまま、一箇所も訂正しなかったとのことです。
そして、例の頬びんたのことは、自分から町じゅうに触れて歩いたそうです。
ここでも、前の妻に逃げられた時と同じように、自分の不幸を面白おかしく脚色して笑い飛ばしていたのでしょう。
たぶん彼の中に常にもうひとりの彼がいて、狭い人間世界であくせくする自分を、どこか遠くから冷めた視線で眺めているのでしょう、ここまでは、よくあることですが、彼の場合は、ここから行動に移してその関係性を引っ掻き回すわけですから不運も悲劇も吹っ飛んでしまいますね。
ここまでみてきた「フョードル」の性格について一言でいえば、とんでもないやつ、と言えると思いますが、なかなか一筋縄でいかないところがあり、その行動にはある種の複雑性を背景にした一貫性のようなものがあるように思います。
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