「アリョーシャ」がこの町に戻ってきた理由について、作者ははっきりとは書いていませんが、読者には、はっきりとわかります。
最初、父の「フョードル」は「なぜ学校も終えずに、舞い戻ってきたんだ?」としつこく問いただしました。
「フョードル」のことですので、長兄「ドミートリイ」がそうだったように、お金が目的だと思ったからでしょう。
少し前のところに書かれていますが、「フョードル」は息子たちのことをよく知りもしないのに「イワンとアレクセイという二人の息子もいずれはきっと乗りこんできて金をせびるにちがいないと、いつも心配しつづけて」いるような人間です。
「フョードル」は「くだくだと」質問しました。
もしかすると「ドミートリイ」のことを例にあげて、お金が目当てじゃないかと話したのかもしれません。
それに対し「アリョーシャ」はまったく何も答えませんでした。
そして、沈んだ様子だったそうです。
「アリョーシャ」はこのときはじめて自分の父親「フョードル」に対面したわけです。
普通なら、おおいに失望するとともにいろいろな思いが交錯して何をどう考えていいのか判断停止状態におちいったりしそうですが、「アリョーシャ」のような人間の場合はまた別のような考え方をしているのかもしれません。
「アリョーシャ」が何も答えないので、「フョードル」はなおさらしつこく追及したのでしょう。
そして、ほどなく、「アリョーシャ」が母の墓を探していることがわかりました。
それで「アリョーシャ」は母の墓にお参りするために帰省したと「フョードル」に一応もっともらしい理由をつけて話そうと思いました。
「アリョーシャ」は嘘などつけぬ性格なので、実際はそう言わなかったのではないかと思いますが、もし言ったとしたら、どうのように話したのか興味があるところです。
そんなことは作者にしかわからないことですが、「だが、はたして帰郷の理由がそれだけに尽きるかどうか、疑わしいものだ。」ともったいぶって書いています。
さらに続けて、「何より確かなのは、そもそもいったい何がふいに心の奥から湧き起って、彼を何か新しい未知の、しかし避けられぬ道に否応なしにひきこんだのか、当時は自分でもわからなかったし、絶対に説明できなかったにちがいないということだけだ。」
これが、この町に戻ってきた理由だと今はっきりとわかりました。
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