2016年6月2日木曜日

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最初のうちは「フョードル」にしてみれば、自分にまったく非難めいた態度を取らない「アリョーシャ」のことを腹に一物があるのではないかといぶかっていましたが、2週間とたたぬうちに、ころりと考えが変わってしまいました。

「もっとも、一杯機嫌の感傷で、酔いの涙を流しながら」ではありましたが、「やたらと息子を抱きしめて接吻する」ようになったのです。

「フョードル」は「心底から深い愛情を息子にいだいた」ようです。

そして、「彼のような人間がこれほど人を愛したことは、もちろん、これまでに一度もないこと」でした。

「アリョーシャ」は、愛などとは無縁で、疑い深い「フョードル」のような人間でも、変えてしまうだけの何か底知れぬ力を持っていたのです。

逆に言えば、「フョードル」は、彼の態度から推し量られる好ましい性格について、それは外面だけのものではなく、彼の本心から出るものであるということを見抜いていたのですね。

それはそれでまた恐ろしいですね。


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