さて、次はどなたでしょうか、「ゾシマ長老」は腰をあげ、乳呑児を抱いた健康そうな農婦を嬉しそうに眺めやりました。
彼女は、ここから六キロあるヴイシェゴーリエから子供を抱いてやってきたのでした。
彼女は何度かきているのに、長老が自分を覚えてないようなので、あなたさまの記憶力もたいしたことはないね、とずけずけと話します。
長老が病気だと聞いて、自分で行ってみてこようと思ってきたが、こうしてさっきから見ていると元気そうで、まだ二十年も長生きしますよ、「本当に。お達者でいてくださいよ!」あなたさまのことを祈ってる人間はたくさんいますから、と長老に伝えます。
「ありがとう、いろいろと」と長老は言います。
長老が「いろいろ」と言ったのは、彼女の気遣っている、文字どおりいろいろのことを感じたからでしょうが、こういうさりげない表現で作品が生きてきます。
そして、彼女は、自分はここに六十カペイカもっているから、あなたさまなら、だれに渡すべきか知ってらっしゃるだろうから、わたしより貧しいおなごにあなたさまからあげてくださいと言います。
長老は、ありがとう、お前さんはいい人だね、必ず約束をはたすと言って、抱いている子供のことを聞きます。
その子は「リザヴェータ」という名の女の子でした。
「リザヴェータ」という同じ名前の人物は、次の章から頻繁に出てきます。
『罪と罰』にもこの名前の人物は出てきましたね。
長老は、お前さんはすっかりわたしの心を明るくしてくれたよ、と言い、彼女と「リザヴェータ」に祝福を与えました。
そして、みんなにも祝福を与え、深々と一礼しました。
0 件のコメント:
コメントを投稿