2016年9月5日月曜日

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「ゾシマ長老」は「フョードル」の質問について「いいえ、正しくありません」と答えました。

図書係の司祭修道士は、どの『殉教者列伝』にも、それに類した話は出ておらず、どの聖者のことをそんなふうに書いてあったのかと問い返しました。

「フョードル」は、人から聞いた話なので、だれのことかは知らない、欺されたのではないかと言う人もいる、そして、その話をした人は、なんと、さっきディドロの件で腹を立てていた「ピョートル・アレクサンドロウィチ・ミウーソフ」なのだ、と。

「ピョートル・アレクサンドロウィチ・ミウーソフ」は、あなたと口をきくことなんぞ、全然ないのだからそんな話をしたおぼえはない、と言いました。

「フョードル」は、その話は先おととしのことで、わたしに直接話してくれたわけではなく、わたしがいる席で話したのだ、そのこっけいな話で、わたしは信仰をぐらつかされたので、おくおぼえている、ミウーソフさんはそんなことは知らなかったでしょうが、「わたしは信仰を揺さぶられて家に帰り、それ以来ますますぐらつき放しでさあ。そうですとも、ミウーソフさん、あんたがたいへんな堕落の原因だったんですよ!」それは、ディドロどころの騒ぎじゃないですよと、悲痛に息まいて言いました。

この発言により「ピョートル・アレクサンドロウィチ・ミウーソフ」は手ひどく傷付けられましたが「フョードル」がまたしても演技していることは、もはやだれの目にもまったく明らかだったとのことです。

「ピョートル・アレクサンドロウィチ・ミウーソフ」もいい加減な話しをしたものですが、「フョードル」もそんなことを執念深く覚えていて、この席でいろいろと脚色を加えて披露するなど、なかなかたいしたものです。

そして、「フョードル」は信仰を揺さぶられたのは、内心ではたぶん全く堕落と思っていないんじゃないかと思いますが、ここでは悲痛に息まくという演技をしながら「ミウーソフさん、あんたがたいへんな堕落の原因だったんですよ!」と人のせいにしています。


つまり、自分自身にも他者にも嘘をついていますから、「ゾシマ長老」の言う「人々や自分自身に対する絶え間ない嘘」の見本のようですね。


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