2016年9月9日金曜日

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三 信者の農婦たち

「ゾシマ長老」は、数分だけ中座すると言って、囲いの外壁につきだした木造の渡り廊下の方に向かいました。

そこには、このときは女ばかり、農婦が二十人ほど、長老がついにお出ましになると知らされて、期待に包まれながら集まっていました。

そして、身分の高い訪問者のために別室が設けられていましたが、そこにいた地主のホフラコワ家の母と娘の二人も渡り廊下に出てきました。

この別室のことは、道案内の修道僧が、渡り廊下の囲いの外に二つの小部屋があって、ハリコフ県の地主のホフラコワさんが長老を待っていると説明していました。

母の「ホフラコワ夫人」は、33歳で未亡人になって5年、いつも趣味のいい服装をしている裕福な婦人、若々しく、顔色こそやや青白いが、ほとんど真っ黒な目に生気のあふれる愛くるしい人です。

娘は14歳、小児麻痺で足が不自由、半年ほど歩くことができず、長い車椅子で運ばれていました。

彼女は、美しい顔が病気のためにいくらかやつれてはいましたが、快活そうで、睫毛の長い、黒い大きな目に、何かいたずらっぽいものが光っていました。

母親は春ごろから外国へ連れてゆくつもりでいたのですが、夏のうち領地の整備で遅れたのでした。

ということは、今は秋ごろでしょうか。

娘を外国に連れていくというのは、何のためなのでしょうか。

母娘は信仰のためというより、むしろ用事ですでに一週間くらいこの町で暮らしており、三日前に長老を訪ねていました。


そして、長老はもはやほとんどだれにも会うことができないことを承知していながら、今こうして突然やってきて、もう一度《偉大な治療者にお目にかかる幸福》にあずかりたいと、しつこく哀願し、頼みこんでいたところでした。


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