「変な話だ、まったく変な話ですな!」と「ミウーソフ」が、かっとなってというわけではなく、何か憤りを胸に秘めているかのように言いました。
「ゾシマ長老」の話は自由主義者で文化的市民としての「ミウーソフ」の主義主張に全く反するものだったのでしょう。
ここで、「かっとなってというわけではなく、何か憤りを胸に秘めているかのように」と言う表現を使っていますが、この場における「ミウーソフ」の複雑な心理をよく表しており、これこそ文学的表現だと思います。
また、いつもは叫ぶ「ミウーソフ」がここでは、叫んでいません。
「何がそんなに変だと思われるのですか?」と「イォシフ神父」が用心深くだずねました。
ここでの「用心深く」という何気なく読み飛ばされそうな表現も「イォシフ神父」の心中が察せられるようなすぐれた文学的表現です。
「実際の話、これはいったい何てことです?」と、「ミウーソフ」は突然堰を切ったように叫びました。
ここで、著者は「ミウーソフ」に叫ばせています。
「ミウーソフ」は続けます。
「地上の国家を排して、教会が国家の位にあがるなんて!それじゃウルトラモンタニズムどころか、超ウルトラモンタニズムじゃないですか!そんなことはグレゴリウス七世(訳注 ローマ教皇。ローマ教皇のみが正当で、普遍的な教会の主であり、彼のみが新しい法令を制定する権能を有すると説き、教皇が教会と世界の無条件の主であると唱えた)だって考えなかったでしょうよ!」と。
グレゴリウス七世について少しだけ調べました。
グレゴリウス七世は、ローマ教皇。本名はイルデブランド。グレゴリウス改革といわれる一連の教会改革で成果をあげ、教皇権の向上に寄与。叙任権闘争における神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世との争いでも知られる。カトリック教会の聖人であり、記念日は5月25日。ハインリヒ4世の争いは有名で「カノッサの屈辱」といわれ、1077年1月25日から3日間に及んで雪が降る中、カノッサ城門にて裸足のまま断食と祈りを続け、教皇による破門の解除を願い、教皇から赦しを願ったことを指す。
「ミウーソフ」の発言に対し「パイーシイ神父」が「あなたはまるきり正反対に解釈なさっておられますね!」ときびしく言いました。
そして、教会が国家になるのではなくて、そんなことはローマとその夢であり、それは悪魔の第三の誘惑だ、そうではなくて反対に国家が教会になって、教会の高さにまでのぼって全地上の教会となるのだ、これはウルトラモンタニズムやローマやあなたの解釈にも全く反することで、「地上における正教の崇高な使命にほかならないのですからね。この星は東方からさしのぼるのです」と。
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