六 こんな男がなぜ生きているんだ!
ずいぶんと挑発的な小見出しですが、「こんな男」というのは「フョードル」のことではないでしょうか。
「ミウーソフ」の「キリスト教徒の社会主義者」の話題を巡って一悶着ありそうな雰囲気でしたが、ここで、やっと会合の場に現れた「ドミートリイ」の紹介です。
①中背で、②感じのいい顔立ちで、③二十八歳の青年、④年より老けて見える、⑤筋骨たくましく、並はずれた体力の持ち主らしい、⑥顔に病的なものがあらわれている、⑦顔は瘦せぎすで頬がこけて不健康な黄色みを帯びる、⑧大きな黒い目は出っ張り気味でてこでも引かぬ強情さを内に秘めどこか焦点が定まらない。
そして、「興奮して、苛立ちながら話すようなときでさえ、その眼差しはさながら内心の気分に従わずに、何か別の、時にはその瞬間にまるきり釣り合わぬことを表現しているかのようでした。
彼と話したことのある人たちは「あいつは何を考えているのか、容易にわからない男だ」と評したものでした。
彼の目に何か物思わしげな気むずかしい光を見いだす人々も、そんな気むずかしい目つきをしている反面、陽気なおどけた考えが存することを証明するような突発的な高笑いに、ふいに肝をつぶすことがよくありました。
ここまで、詳細には描写されているのですが、それでもなお、顔立ちも体力的にも矛盾したところがあり、不均衡さが滲み出ているような奇妙な書き方で、「ドミートリイ」のつかみどころのない不気味さのような性格がよくあらわれているように思います。
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