長老への挨拶を終えた「ドミートリイ」は次に、もはや今や敵対者となっている父親の「フョードル」の方をふりかえり挨拶をします。
その挨拶は長老にしたのと同じようなうやうやしく深々とした一礼でした。
このおじぎについて、彼はあらかじめ考えぬき、これによって自分の敬意と善意をあらわすのを義務と見なして、真剣に思いついたことは明らかでした。
この丁寧なおじぎの一礼に「フョードル」は不意をうたれましたが、すぐに彼らしく立ち直り、「ドミートリイ」のおじぎに答えて椅子からはね起き、そっくり同じように深いおじぎを返しました。
このへんは、おもしろい心理的なやりとりが表現されていますね。
「フョードル」は「ドミートリイ」のことだから挑戦的で横柄な態度をとるか、意図的に自分のことを無視するんじゃないかとでも思っていたかもしれません。
ここでは、「ドミートリイ」の作戦勝ちですね。
しかし、さすがに「フョードル」は立ち直りが早く、次の一手を考えつくのも早いもので、「ドミートリイ」と同じおじぎを返します。
そして、「フョードル」はそんな行動をとった自分を反省したのかもしれません。
急にその顔が重々しい、威厳のあるものになり、そのためにかえって露骨に敵意を示した顔つきになりました。
遅刻をしてやってきた「ドミートリイ」ですが、むしろ「フョードル」に対しては有利な展開です。
「ドミートリイ」は部屋にいる人すべてに無言のまま一礼し、いつもながらの大股なきびきびした足どりで窓に歩みより、一つだけ残っていた「パイーシイ神父」の近くの椅子に腰をおろすと、椅子の上で全身をのりだし、自分のために中断された話のつづきをきこうと身がまえました。
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