「どうして君はそんなに何もかも知ってるんだい?なぜそんなに確信をもって言えるの?」と「アリョーシャ」は突然眉をひそめてきびしくたずねました。
そうすると「ラキーチン」は「じゃ、なぜ君は今そうやって質問しながら、きく前から僕の返事を恐れているんだね?つまり君自身も、僕が真相を語っているってことを認めているわけさ」と反撃します。
よほど、「アリョーシャ」の態度が普通ではなかったのでしょうか。
「アリョーシャ」は言います。
「君はイワンがきらいなんだよ。イワンは金に釣られたりしないさ」と。
次の「ラキーチン」の発言をきくと、これは図星だったように思います。
「そうだろうか?じゃ、カテリーナ・イワーノヴナの美しさには?この場合、金だけじゃないさ、もっとも六万ルーブルは魅力的な代物ではあるけど」と。
「ラキーチン」は「イワンがきらいなんだよ」という言葉を否定していません。
「アリョーシャ」は、イワンの狙いはもっと高いところにあって、彼はどんな大金にも釣られないし、イワンの求めているのはお金や、平安じゃなくて、ひょっとしたら、苦悩を求めているのかもしれない、と言います。
「これはまた何の寝言だい?いや、君らは・・・貴族だよ!」と「ラキーチン」は驚きます。
「ああ、ミーシャ、兄さんの心は嵐のようにはげしいんだよ。思考が一つことにとらわれているんだ。兄さんの思想は偉大だけれど、まだ未解決のままなのさ。兄さんはね、何百万の金だろうと見向きもせず、思想の解決だけを必要とするタイプの人間なんだよ」と「アリョーシャ」は「イワン」のことを弁護します。
「ラキーチン」は、それは文学的な剽窃で、長老の二番煎じじゃないか、「とにかくイワンは君らに謎をぶつけたもんだ!」と、敵意を露骨に示して叫びました、そして、顔つきまで変り唇がゆがんでいました。そして、続けます、しかもその謎は愚にもつかないもので、わざわざ解くほどのものではないし、ちょっと頭を働かせればわかるし、彼の論文なんてこっけいで愚劣なものだ、さっきも『不死がなければ、善行もないわけであり、したがってすべてが許される』というばからしい理論をきかされたが、(それはそうと、あのときミーチャは『おぼえときましょう!』なんて叫んでたっけな)、卑劣漢には魅力的な理論さ・・・いや、これじゃ悪口になってしまう、ばかげた話だ・・・卑劣漢じゃなく、《解決しえぬほど深い思想を持つ》中学生じみたほら吹きと言いなおそう、単なるハッタリさ、その本質は『一面から言えば認めざるをえないし、他面から言ってもみとめぬわけにはいかない』というだけのことじゃないか、彼の理論なんざ、卑劣そのものだ、人類は、たとえ不死を信じなくとも、善のために生きる力くらい、ひとりで自分の内部に見いだすさ!自由、平等、同胞主義などへの愛の中にみいだすにちがいないんだ・・・、と。
「ラキーチン」はすっかりむきになり、ほとんど自分を抑えることができぬほどでした。
そして、突然、何かを思いだしたかのように、ふっと黙りました。
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