「フョードル」が思い出したことは、彼にとってどう作用したのでしょうか。
彼は、今このことを思いだし、しばし考えに沈んだまま、彼は声もなく憎さげにせせら笑った、そうです。
そして、目がきらりと光り、唇までがふるえはじめました。
『なに、毒食わば、皿までだ』だしぬけに彼は決心しました。
この瞬間、胸奥に秘めた感じは、こんな言葉で表現しえたにちがいない、と作者は書いています。
すなわち、『今となっちゃ、どうせ名誉挽回もできないんだから、いっそ恥知らずと言われるくらい、やつらに唾をひっかけてやれ。お前らなんぞに遠慮するもんか、と言ってやろう、それだけの話さ!』
「フョードル」は自分も含めて人間というものを嫌っているのでしょう、そこには開き直った一貫性のようなものがあります。彼にとっての善悪の基準は何でしょうか。
「フョードル」は迎えに来た馭者にしばらく待つように命じ、急ぎ足に修道院にとって返し、まっすぐ院長のところに向かいました。
彼は、自分が何をしでかすか、まだよくわかりませんでしたが、もはや自制がきかず、ちょっとした刺激で今や一瞬のうちに何か低劣さのぎりぎりの線まで堕ちてしまうことはわかっていました。
と言っても、低劣というだけのことで、決して何か犯罪とか、あるいは法廷で罰せられるような行為ではありませんでした。
彼はいつもほどほどに抑えておくすべを心得ており、ときにはわれながら感心するくらいでした。
「フョードル」は複雑な人間ですね。周りにいる普通に社会生活している人間すべてが、偽善者のように思えて不快なのでしょう。彼らには意識的か無意識的かわかりませんが、心の中に押し殺しているものがあって、それをあばきたてたいという衝動があるのだと思います。
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