「リザヴェータ」を冷やかした一杯機嫌の紳士たち一同は「フョードル」の思いがけない意見を聞いて、もちろん大笑いし、だれか一人が「フョードル」をけしかけはしましたが、ほかの連中は、相変らず度はずれにはしゃいではいたものの、いっそうけがらわしそうに唾を吐きすて、しまいにはみんなさっさと逃げだしました。
この時の事実はここまでしか書かれていませんので、あとは読者の想像にまかせますということになりますが、このあといろいろ書かれていることを考えると、読者はそうであったと確信をもつようになるのですが、あくまでその事実は書かれていません。
後日「フョードル」は、自分もあの時みんなといっしょに帰ったのだと、誓いまでたてて言い張ったとのことですので、かなり疑われていたのだということがわかります。
「ことによると、本当にそうだったのかもしれないが、だれひとりたしかにそれを知っている者はいないのだし、」絶対にわかるはずもなかったけれど、五、六ヶ月たつと、町じゅうの者がみんな「リザヴェータ」の大きなお腹を見て、心からのはげしい憤りをこめて噂するようになり、いったいだれの仕業なのか、だれが辱しめたのだろうと、たずねまわり、追求しはじめました。
その矢先に突然、辱しめた犯人はほかならぬあの「フョードル」だという恐ろしい噂が町じゅうに広まりました。
「どこからこの噂が流れたのだろう?」
この疑問符は誰が言っているのでしょう、何でもよく知っているこの物語の語り手です。
あの晩遊んだ紳士たちの五人ばかりは、このころには各地に散ってしまっており、町に残っていたのは一人だけで、それも年ごろの娘を何人もかかえた家庭持ちの、もう年配の、尊敬すべき五等官だけでしたので、かりに何事かあったとしても、決して言いふらしたりするはずはありませんでした。
しかし、噂はずばり「フョードル」をさしていましたし、その後もさしつづけました。
「もちろん、当人はさほど自分の仕業だと吹聴したわけではなかった。」そこらの商人や町人風情に答えるつもりもなかったにちがいありません。
「そのころ彼は傲慢で、口をきくのは、自分があれほど笑わせてやる官吏や貴族の仲間うちに限られて」いました。
ここで「そのころ彼は・・・」というこの一文を入れることの配慮は何気ないようですが、読者に時間を意識させる意味で効果が絶大ですね。
ここで「そのころ彼は・・・」というこの一文を入れることの配慮は何気ないようですが、読者に時間を意識させる意味で効果が絶大ですね。
また、「フョードル」は「さほど自分の仕業だと吹聴したわけではなかった。」と書かれていますが、これはどういうことでしょう。
「そこらの商人や町人風情」が「フョードル」を名指しで噂しているときも、反論しなかったということでしょうか、それとも「官吏や貴族の仲間うち」の誰かに内密にしゃべったことがあったのでしょうか、これも事実は書かれていませんが、読者に、そうかもしれないと思わせるだけの何かがあります。
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