ここで物語は、食卓の場面の前にさかのぼり接続します。
「ラキーチン」が、わめきちらしながら外に出てきた「フョードル」を見つけて「アリョーシャ」に教えた場面です。
「フョードル」の方も遠くから「アリョーシャ」を見つけました、そして、今日にも俺のところへすっかり移れ、枕も敷布団もかついでくるんだ、こんなところにお前の匂いも残さんようにしろ、と叫びました。
「アリョーシャ」は無言のまま、注意深くこの光景を眺めながら、釘付けにされたように立ちどまっていました。
「フョードル」は馬車にのりこみ、「イワン」がつづくのですが、彼は「アリョーシャ」の方をふりかえろうともしないで、むっつりと気むずかしげな様子で馬車にのろうとしかけました。
そこで、作者は次のように書いています。
「だがこのとき、今日のエピソードをさらに完全なものにするような、ほとんど信じがたいほどこっけいな光景が生じた。」と。
このあとに、その内容がつづくのですが、いろいろあったあとで、いまさら別に「ほとんど信じがたいほどこっけいな光景」とまでは思いませんが。
地主の「マクシーモフ」が突然、馬車のステップのわきにあらわれました。
彼は遅れまいと息せき切って駆けつけたのでした。
「ラキーチン」と「アリョーシャ」は、離れた場所から彼が走ってきたところを見ていました。
彼は急ぐあまり、まだ「イワン」の左足が置かれているステップにすばやく片足をかけ、車体にしかみついて、馬車にとびのろうとしかけました。
「わたしも、わたしもお供します!」と彼は小刻みな陽気な笑い声をたてて、跳びはねながら、幸福の色を顔にうかべ、今やどんなことにでも応ずるといった様子で、「わたしも連れていってください!」と叫びました。
「フョードル」は、「ほら、俺の言ったとおりだろうが」と有頂天になって叫びました、そして、やっぱりフォン・ゾーンだ、死者の国からよみがえった正真正銘のフォン・ゾーンだ、それにしてもどうやってあそこから逃げだしてきたんだい?どんなフォン・ゾーンぶりを発揮したんだか、よくも食事の席からずらかってこられたもんだな、こいつはよほどずうずうしくなけりゃできない芸当だ、俺もずうずうしいほうだが、お前には恐れ入ったよ!、跳びのれ、早く乗るんだ、のせてやれ「ワーニャ」(訳注 イワンの愛称)、にぎやかにならあ、そいつは足もとのあたりに寝そべって行かせりゃいい、寝そべってるだろ、フォン・ゾーン、でなけりゃ、馭者とならんで馭者台におさまるか?・・・じゃ、馭者台に跳びのれ、フォン・ゾーン!、と。
だが、すでに座席についていた「イワン」が、無言のまま、いきなり力まかせに「マクシーモフ」の胸を突いたので、相手は二メートルもすっとびました。
ころばなかったのが、まったくの偶然にすぎませんでした。
「やれ!」と「イワン」は怒ったように馭者に叫びました。
これが、「ほとんど信じがたいほどこっけいな光景」というわけですが、「ラキーチン」と「アリョーシャ」のように遠くから見るとこっけいかも知れませんね。
それにしても「イワン」はどうしたのでしょう。
彼は感情をあらわに出すタイプではないと思いますが、「フョードル」に対しての怒りが極限に達したのでしょうか。
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