この野蛮な「イワン」の行為に対しては「フョードル」でさえも驚いたのでしょう。
「どうして、お前?どういうわけだい?なぜ、あの男をあんな目に?」と叫びました。
馬車はもう走りだしており、「イワン」は答えませんでした。
「まったくお前って男は!」二分ほど黙っていたあと、息子に横目を走らせながら、また「フョードル」がつぶやきました。「この修道院の計画をたてたのはお前じゃないか、自分でたきつけて、自分も賛成しておきながら、今になってなぜ怒っているんだ?」と聞きました。
ここで、あきらかにされているのですが、この修道院での会合の計画を立てたのは「イワン」だったのですね。ここにはっきりと書かれています。
わたしは、会合のことを言い出したのは「フョードル」かと思っていました。
以前に作者はこう書いていました。
「どうやらフョードルが最初に、それもおそらく冗談まじりで、ゾシマ長老の僧庵にみなが集まって、たとえ直接の調停を頼まぬにしても、とにかくなんとかもう少しきちんと話をつけようではないか、そうなれば、長老の位と風貌とが何かしら和解的な、暗示的な効果をもたらすかもしれなぬから、という考えを出したらしい」
また、「当時この町で暮らしていたミウーソフが、フョードルのこの思いつきに・・・」、「兄のイワンと、ミウーソフとは、たぶんきわめて無礼な好奇心から来るだろうし・・・」。
これらのことから、遺産や財産上の勘定をめぐっての「ドミートリイ」と「フョードル」の争いがもうたえられなかったところまできておりましたので、その調停的なことを主な目的に「ゾシマ長老」の僧庵で家族会議を開こうと計画したのは「フョードル」かと思っていました。
しかし、違っていました、よく読むと、「・・・らしい」と書かれています。
実際には「イワン」が言い出したのですね。
彼は、「ばかな真似をするのは、もうたくさんです。せめて今くらい少し休むことですね」とにべもなく言いました。
「フョードル」はまた二分ほど黙りこみました。
そして、「今コニャックをやれたら、さぞいいだろうにな」としかつめらしく彼は言いました。
しかし、「イワン」は答えませんでした。
「家につきゃ、お前だって飲むくせに」と「フョードル」。
「イワン」は終始無言でした。
「フョードル」はまた二分ほど「イワン」の発言を待ちました。
「それはそうと、アリョーシャはやはり修道院から引きとるぞ、君にはさぞ不愉快なことだろうがね、尊敬すべきカール・フォン・モール君」
「カール・フォン・モール」というのは、シラーの『群盗』ですね。
「フョードル」の頭の中には、いろいろな物語が同時進行しているようですね。
「イワン」はさげすむように肩をすくめると、顔をそむけ、通りを眺めはじめました。
そのあと、家へつくまで二人は口をききませんでした。
この会話にあるように、「イワン」の不機嫌の理由のひとつは、「アリョーシャ」を引きとることもあるのでしょうか。
しかし、それはどうして?
ずっと前から作者は「イワン」のことを「謎」の人物だというように書いています。最初は「帰郷の理由の謎」だったのですが、これは「ドミートリイ」の頼みと用件ということで解決しています。しかし、一つ屋根の下で「フョードル」とうまくやっていっていることとか、「アリョーシャ」に対し急に無関心になったこととか、彼の論文の内容の二重性とか、僧庵でのキリスト教寄りの発言とか、彼が何を考えているのかわかりません。彼の人格を統合するものがまったく見えてこないのです。これは、作者が「イワン」の人物構成を作成しそこなっているのでしょうか、それとも意図的なのでしょうか、「イワン」については、この小説全体のもっとも重要な人物と思われますので興味深いところです。
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