この家は母屋と離れがあり、もともとは大家族用に作られていましたので、主人も召使も今の五倍は楽に収容できるほどでした。
離れは中庭に建てられており、だだっ広く頑丈でした。
母屋にも台所はあるのですが、「フョードル」は台所の匂いをきらったので、炊事は離れでさせることにしており、料理は夏も冬も中庭をとおって運ばれるのでした。
毎日、中庭を通って二人ぶんの料理を運ぶのはたいへんですね。雨の日はもちろん、冬は寒いし、料理も冷めるでしょう。
作者によれば、「この物語の当初、母屋に住んでいたのはフョードルと息子のイワンだけだったし、召使用の離れにも、老僕のグリゴーリイと、その老妻マルファ、スメルジャコフというまだ若い召使の、全部でたった三人が暮らしているにすぎなかった。」とのことです。
「この物語の当初」というのは、第二編の冒頭「晴れわたったあたたかな日に恵まれた。八月の末だった。」ということでしょう。
第一編は家族の紹介が主で、第二編のこの日、つまり八月の末、修道院に到着した時から物語が進行します。
それにしても、わたしには母屋と同じように離れの建物もこの段階では具体的な形状は思い浮かんできません。
その離れに暮らす三人の召使について作者は「もう少し詳しく話しておく必要があるだろう」と言います。
しかし、老僕の「グリゴーリイ・ワシーリエウィチ・クトゥゾフ」に関しては、すでにかなり話しておいた、ということですが、さらに補足しています。
「いったん何らかの理由、それもたいていの場合おどろくほど非論理的な理由によって、変わることない真実として一つの点が目の前に設定されるや、その点をめざして頑なほどまっすぐ歩みつづける、意志の堅固な一徹者である。概して言うなら、正直で、鼻薬のきかぬ人物だった。」と。
「鼻薬」は「はなぐすり」と読むそうです。
そして「鼻薬」とは、「ちょっとした賄賂(わいろ)。袖の下。使用例「鼻薬をきかせる」」という意味だそうですが、わたしは知りませんでした。
この「グリゴーリイ」の人物説明の翻訳はわかりにくいと思います、つまり、自ら思い込んでしまったらたとえ何があっても突き進む人物である、いうことになるでしょうか。
「グリゴーリイ」は、「ドミートリイ」を一年間、召使小屋で預かっていました、そして、以前に「陰気で愚かで意固地な理屈屋」というように説明されていました。
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