「ドミートリイ」は「黙ってくれ、アリョーシャ、黙るんだ。まったくお前の手に接吻してやりたいよ、感動のあまりな。あの悪女のグルーシェニカは人間を見る目があるな、いつぞや俺に言ってだぜ、そのうちきっとお前を食べちゃうって。いや、黙る、黙るよ!けがれた世界をぬけて、蝿に汚されてた舞台から、俺の悲劇に移ろう、これだってやはり蝿に汚された、つまりありとあらゆる低劣さに汚れはてた舞台なんだがね。要するに、清純な娘を誘惑した一件で、さっき親父がいい加減なことを言いはしたものの、実際、俺の悲劇の中には、たった一度だけ、それも成立しなかったとはいえ、そういうことがあったんだよ。親父はありもせぬ作り話で俺を非難したくせに、この一件は知らないんだからな。俺はいまだかつて、だれにも話したことがないし、今はじめてお前に話すんだ。もちろん、イワンは例外だよ、イワンは何もかも知っている。お前よりずっと先に知っているんだ。でも、イワンは墓石だからな(訳注 口が固いという意味)」と言いました。
「アリョーシャ」が自分も卑しい情欲があると吐露したことで、「ドミートリイ」がいかに感動したかがわかります。
おそらく、「ドミートリイ」も「アリョーシャ」の清廉潔白さには疑問があったのでしょう、正直に話してくれてうれしいと同時にそれ以上聞きたくない気持ちなのですね。
そして「ドミートリイ」が「グルーシェニカ」も「アリョーシャ」に対してそういった意味の性的なことを言っていたことがあると話しはじめてので、「アリョーシャ」はたぶん顔を赤くしてそれ以上の話しを聞くことを拒む様子だったんだと思います。
それにしても、「ドミートリイ」がいかに「イワン」を信頼しているかがよくわかります。
「アリョーシャ」は言います。
「イワンが墓石ですって?」
「うん」
「アリョーシャ」はきわめて注意深くきいていました。
「アリョーシャ」は「イワン」のことをどう思っているのでしょう。
「ドミートリイ」も「アリョーシャ」も今日の修道院での会合を計画したのが「イワン」だということを知りません。
「ドミートリイ」は信頼の置ける「イワン」に何もかも正直に話しているのでしょうが、「イワン」は今日の会合の計画のことも話してないのです。
また、「ドミートリイ」も「アリョーシャ」も「イワン」が「ラキーチン」のことを小馬鹿にしたようなことを言っていたことを知っています。
「アリョーシャ」の発言「イワンが墓石ですって?」は、「ラキーチン」のことを「イワン」がぺらぺら喋っていたことを知っているからでしょう。
「アリョーシャ」は「イワン」が突然のように自分に興味を失ったこともそうですが、親友が非難されたこともあって、「イワン」のことについては、尊敬していると同時に何か引っかかるものがあったと思います。
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