2017年2月18日土曜日

324

「ドミートリイ」の話がさらに続きます。

「ところが突然、新任の少佐が大隊を引きつぎにやってきた。事務引きつぎだ。老中佐は急に発病して、動くこともできず、二昼夜というもの家にこもりきりで、官金を引き渡そうとしないんだな。町のクラフチェンコという医者が、本当に病気だと力説したもんさ。ただ俺だけは真相を詳細にわたって、ひそかに知っていた、それもだいぶ前からだよ。この金はもう四年ばかりずっと、当局の監査がすむと、そのあといつも一時消えていたものなんだ。中佐がきわめて信頼できる筋に貸し付けていたんだよ。町の商人で、金縁眼鏡に顎ひげの、トリフォーノフという男やもめの老人にさ。相手は市場へ行って、その金をしかるべく回転させ、すぐに耳を揃えて中佐に返す、しかも金といっしょに市場から土産を届ける。お土産に利息つきというわけだ。ところが今度に限って(そのころ俺は偶然、トリフォーノフの跡とり息子で、まれにみるくらい堕落しきった洟たれの青二才から、一部始終をきいたんだがね)、トリフォーノフのやつ、市場から帰っても、何の挨拶もないんだな。中佐はすぐとんで行った。『いまだかつて、あなたから何一つ拝借したことなんぞありませんよ、それに拝借できるわけもなし』と、これが返事さ。さあ、中佐は家にひきこもって、タオルで鉢巻をし、三人の女が頭のてっぺんに氷嚢をあてる騒ぎだ。そこへ突然、伝令が帳簿と命令をもって駆けつけてきた。『官金を二時間以内に、ただちに提出せよ』中佐は帳簿にサインした。この帳簿のサインを後日俺も見たがね。それから立ちあがると、軍服に着かえに行くと言って、寝室に駆けこみ、二連発の猟銃をとるなり、歩兵の弾をこめ、右足の長靴をぬいで、胸にしっかり銃をあてがい、片足で引金を探しにかかったんだ。ところが、アガーフィヤがいつか俺の言葉をおぼえていて、怪しいと思っていたので、そっと忍んできて、折りよく見つけたんだな。彼女は部屋に駆けこむなり、うしろから父親にとびつき、抱きとめた。銃は天井を射ちぬいて、だれにも怪我はなかった。ほかの連中もとびこんできて、中佐にむしゃぶりつき、銃をとりあげて、両手をおさえた・・・これはみんな、あとできいたことだぜ。そのとき俺は自分の家にいたんだよ。夕方、外出する気になった矢先で、服を着かえ、髪をとかし、ハンカチに香水をふり、軍帽をとりあげたとき、いきなりドアが開いて、目の前に、俺の部屋に、カテリーナが入ってきたじゃないか。」

ここでまた切ります。

「ドミートリイ」は何でも知っていますね。

短い中にも十分に物語の要素が凝縮されていて面白い内容です。

「ドミートリイ」が「トリフォーノフ」の「跡とり息子で、まれにみるくらい堕落しきった洟たれの青二才から、一部始終をきいた」と言うのですが、こんな人間からこのような大事な話を聞いたということは、普段の「ドミートリイ」の生活がどんなものなのか何となく想像できます。


また、彼が「アガーフィヤ」を怒らせた会話もここで重要な役目を果たしていますし、彼女がそのことを全部、妹の「カテリーナ・イワーノヴナ」に話していたということが肝心なことでこれで物語が厚みを持ち読者を納得させながら進行していきます。


0 件のコメント:

コメントを投稿