「ドミートリイ」の会話の続きです。
「ふしぎなこともあるもので、このとき、表のだれ一人、彼女が俺のところに入るのに気づいていないんだ、だから町ではこのことは結局知らずじまいさ。俺は官吏の未亡人だった二人のよぼよぼのお婆さんに部屋を借りていたんだが、これが丁寧な女たちで、俺によくつくしてくれたし、何でも言うことをきいてくれたから、俺の言いつけどおり、二人ともその後、鉄の柱みたいに口をつぐんでいてくれたよ。もちろん俺はとたんにすべてをさとったさ。彼女は入ってくると、ひたと俺を見つめた。暗い目が意を決したように大胆に見つめてはいたけれど、唇や口もとにはためらいの色が見てとれた。
『姉が申したのですが、もしわたくしがこちらへ・・・自分でいただきにあがれば、四千五百ルーブルくださるとか。わたくし、参りました・・・お金をください!』彼女はこらえきれなくなって、息を切らせ、怯えた。声がとぎれ、唇の端や唇のまわりの線がふるえはじめたっけ。おい、アリョーシャ、きいているのか、それとも眠ってるのかい?」
本当にいろいろと配慮された会話の内容で、「カテリーナ・イワーノヴナ」が「ドミートリイ」の部屋に入っていくことを「表のだれ一人」見ていなかったことも言及されています。
紙面の制限がないと言っても、ここまで何もかも気を使うことは相当な集中力のいることです。
この部分を普通に読んでいれば、ここで美人の「カテリーナ・イワーノヴナ」が道を歩いているのですから通行人の誰かが気づくでしょうし、しかも「ドミートリイ」の部屋に入って行くのですから目撃者もいるんじゃないのかと、余計なことが頭に浮かんでくるのですが、そんなことを払拭しています。
しかも、それだけではなく、「俺によくつくしてくれた」という二人のお婆さんの存在ですが、一見どうしようもない飲んだくれで無鉄砲な「ドミートリイ」を彼女たちが信頼しているということで、このことは逆に「ドミートリイ」が彼女たちをどう扱っていたかということが分かりますし、また、一人でなく二人ということは、「ドミートリイ」の扱いの平等さをも示しています。
「ドミートリイ」はここまで話して、「おい、アリョーシャ、きいているのか、それとも眠ってるのかい?」と声をかけますが、「アリョーシャ」はこの会話の肝心なところで一体どうしたのでしょう。
前のどこかに書かれていましたが、「アリョーシャ」の性格によるものですね。
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