2017年2月21日火曜日

327

「ドミートリイ」の話の続きです。

「いいかい、これらすべてにはいわば上品な仕上げを施し、したがってだれもこのことを知らぬように、また知ることもできぬようにするには、もちろん、翌日プロポーズしに行けばいいんだ。なぜって、俺は卑しい欲望の持主であれ、誠実な人間なんだからな。ところがその瞬間、ふいに何者かが耳もとでささやくじゃないか。『しかし、明日になればこういう女は、お前がプロポーズしに行ったって、出てもこないし、馭者に命じてお前を庭から放りだすにきまってるんだぞ。町じゅうに言いふらしてもけっこうよ、あんたなんかこわいもんですか、なんてぬかすんだ!』俺はちらと彼女を見た。内心の声は嘘をつかなかったよ。もちろん、そうにきまっている。俺は首根っこをつかんで放りだされるんだ、今のこの顔からも判断できる。俺の心の中で悪意がだぎり返り、何かこの上なく卑劣な商人のようなわるさをしてやりたくなった。嘲笑をうかべて彼女を眺め、今、目の前に立っている間に、小商人でなければとても言えぬような口調で彼女の肝をつぶしてやりたくなったんだよ。
『四千ルーブルですって!いや、あれはちょいと冗談を言っただけでさ、それをあなたは?あんまり人がよすぎやしませんか、お嬢さん。そりゃ、二百やそこらなら、喜んでいそいそとさしあげるかもしれないけど、四千となると、これはお嬢さん、こんな薄っぺらなことに投げだせる額じゃありませんからね。むだなご心配をなさいましたな』
こんなことを言えば、もちろん、俺は何もかもふいにして、彼女は逃げ帰るだろうが、その代り悪魔的な復讐ができることになるし、それだけでほかのすべてに相当するだけの値打ちはあるというものだ。そのあと後悔に一生泣くことになっても、今はただこの悪ふざけをやってみたい!本当の話、こういう瞬間に相手を憎悪の目でにらみつけるなんてことは、いまだかって、どんな女のときにもついぞなかったことなんだ。ところが、誓ってもいい、あのとき俺は彼女を三秒か五秒の間、おそろしい憎しみをこめて見つめていたんだよ、恋と、それも気の狂うほどの恋と髪一筋でへだたっているだけの憎しみをこめてな!俺は窓に歩みよって、凍りついたガラスに額をおしつけた。今でも思いだすけれど、額を火のように氷が焼いたっけ。」

ここで一旦切ります。

ここでの内容は、「ドミートリイ」と「カテリーナ・イワーノヴナ」のどちらが精神上の上に立つかを競う心の中での取っ組み合いのようですね。

しかも「ドミートリイ」の妄想というか、それは彼の心の中だけで行われているんですが。

「恋と、それも気の狂うほどの恋と髪一筋でへだたっているだけの憎しみをこめて」とありますが、そうは言ってもそもそも「ドミートリイ」は彼女に本当に恋しているのでしょうか、性格的には合わないように思いますが、しかしそういうことは関係ないとしても、「ドミートリイ」の美意識とはちょっと違うようにも思えますが。

とにかく、「カテリーナ・イワーノヴナ」の気位の高さは「ドミートリイ」をひどくいらいらさせ、自分の中のカラマーゾフ的ともいえる卑劣な部分に目を覚させた彼女をなおさら憎悪したのでしょう。


最後の「俺は窓に歩みよって、凍りついたガラスに額をおしつけた。今でも思いだすけれど、額を火のように氷が焼いたっけ。」は印象的なシーンですね。


0 件のコメント:

コメントを投稿