2017年2月23日木曜日

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五 熱烈な心の告白-《まっさかさま》

ここで、〔小見出し〕と言うのでしょうか、それが変わります。

(熱烈な心の告白-《まっさかさま》)とは変わった〔小見出し〕ですね。

全体の構成を目次で確認すると、ここは、(第一部)の最後の遍である(第三遍好色な男たち)の五番目の章(五 熱烈な心の告白-《まっさかさま》)になります。

「ドミートリイ」の発言は長く、三番目の(三 熱心な心の告白-詩によせて)、四番目の(四 熱心な心の告白-異常な事件によせて)と続いて、これが最後の第五番目《まっさかさま》になります。

続けます。

「じゃ、今や僕は」と、「アリョーシャ」が言いました。

「この事件の前半を知っているわけですね」と。

少し違和感を感じますが、なぜ「アリョーシャ」は「この事件の前半」と言ったんでしょうか。

これから事件の後半が起こるということを確信しているのでしょうが、実際にはこの時点で彼の立場であれば今後事件が起こる可能性はあっても頭の中で否定すると思いますが。

「前半はお前にもわかるよ。これはドラマで、向こうで起こったことなんだ。ところが後半は悲劇で、これからここで起こるのさ」と「ドミートリイ」。

この辺は作者が自分自身と会話しているように思えます。

「アリョーシャ」は「後半のほうはいまだに僕には何もわからないけど」と言います。

「じゃ、俺には?俺にわかるとでも言うのか?」

「待ってください、兄さん。この場合、一つ大事な言葉がひっかかるんですよ。はっきり言ってください、兄さんは婚約者なんでしょ、今だって婚約者でしょう?」

「俺が婚約者になったのは昨日や今日のことじゃなく、あの出来事のわずか三ヶ月後だよ。あの事件があった翌日、俺は、この出来事はこれできれいさっぱり片がついた、続きはないんだ、と自分に言いきかせたもんさ。プロポーズしに行くのは、俺には卑劣なことに思われた。彼女のほうもそのあと六週間くらい町に暮していながら、一言の便りもよこさなかったよ。もっとも一度だけは別だがね。つまり、あの訪問の翌日、彼女のとこの小間使いがこっそりやってきて、一言も口をきかずに、封筒を渡すんだよ。封筒には、これこれこういう人にと、宛名が書いてある。封を切ってみると、五千ルーブル債権のお釣りさ。必要なのは全部で四千五百ルーブルだったし、五千ルーブル債権の売却に際して二百ルーブルなにがしの損金が生じた。だから送り返えしてきたのは、全部でたしか二百六十ルーブルだったかな、よくおぼえちゃいないけど、とにかく金だけで、手紙もなけりゃ、一言の挨拶も説明もありゃしない。封筒に鉛筆で何かのしるしでもないかと探してみたが、何もないんだな!さしあたりその残りの金で豪遊をはじめたもんで、ついには新任の少佐まで俺に譴責を食わさざるをえなくなったほどさ。ところで、中佐は官金を無事に返却して、みんなをびっくりさせた。なぜって、もはやだれ一人、中佐の手もとに金がそっくりしてるなんて予想していなかったからな。返却はしたが、中佐はどっと病の床について、三週間ほど寝たきりでいたあと、ふいに脳軟化症を起して、五日で死んじまったんだ。まだ退役になっていなかったんで、葬式は軍葬だったよ。カテリーナと、姉と、叔母は、父の葬式もそこそこに、十日ほどしてモスクワへ行ってしまった。その出発の直前、出発するその日に(僕は会いもしなかったし、見送りもしなかったんだけれど)、小さな青い封筒を受けとったんだよ。透かしの入った便箋が一枚、そこに鉛筆でたった一行、『お手紙をさしあげます。お待ちくださいませ。K』と書いてあったっけ。それだけさ」


ここで一旦切ります。


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