「どうして、発作がひんぱんになったのかな?」と、ときおり、彼は新しいコックの顔を見つめて、不機嫌そうに言うことがありました。
そして、「せめて、嫁でももらったらどうだ、なんなら世話しようか?」
しかし、「スメルジャコフ」はそんな言葉に対して、腹立ちのあまり、青ざめるだけで、なんとも答えませんでした。
「フョードル」はあきらめて引きさがるのでした。
肝心なのは、「フョードル」が彼の正直さを信じきっていたことで、何一つ取ったり盗んだりする男ではないと、頭から信じこんでいるのでした。
一度こんなことがありました。
「フョードル」が酔払って、受けとったばかりの百ルーブル札を三枚、わが家の庭の泥濘の中に落し、翌日になってやっと気づいたことがありました。
あわててポケットというポケットを探しにかかったとたん、ふと見ると百ルーブル札が三枚そっくりテーブルの上にのっているのでした。
どこから降って湧いたのだろう?
「スメルジャコフ」が拾って、昨日のうちに届けておいたのでした。
「いや、お前みたいな男は見たことがないよ」
そのとき「フョードル」はきっぱりと言いきって、彼に十ルーブルを与えました。
作者が肝心だというのは、「フョードル」が「スメルジャコフ」の正直さを信じきっていたことですが、もちろんそれは召使として当然にそうあらねばならないことです。
「スメルジャコフ」は料理の腕と正直さ、それ以外のことについては相当な変わり者です。
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