2017年3月21日火曜日

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そのとたん、戸口に立っていた「スメルジャコフ」がふいに薄笑いをうかべました。

「スメルジャコフ」はこれまでもちょいちょい、食事の終りころにテーブルのわきに侍ることを許されていました。

「イワン」がこの町に来たそのときから、彼は昼食にはほとんどいつも姿を見せるようになっていました。

「イワン」がこの町にやってきてから1年も経っていないのではないかと思います。

彼が24歳前後のことでしょう。

確か「スメルジャコフ」は「イワン」の心酔者のようになるのですけど、このことが伏線になっているのですね。

「なんだ?」と「フョードル」が、すかさずその薄笑いを見とがめ、それが「グリゴーリイ」に向けられたものであることをもちろんさとって、たずねました。

「今のお話ですが」だしぬけに大声で、思いがけなく「スメルジャコフ」がしゃべりはじめました。

「その立派な兵士の英雄的な行為が、たいそう偉大だとしましても、ですね。わたしの考えでは、かりにそんな不慮の災難にあって、キリストの御名と自分の洗礼とを否定したとしても、ほかならぬそのことによって苦行のために命を救い、永年の間にそれらの善行で臆病をつぐなうためだとしらた、やはり何の罪もないだろうと思うんです」

「どうして罪にならないんだ?いい加減なことを言うな、そんなことを言うと、まっすぐ地獄に落ちて、羊肉みたいに焼かれちまうぞ」と「フョードル」が合の手を入れました。

ちょうどこのとき、「アリョーシャ」が入ってきたのでした。

すでに見たとおり、「フョードル」は「アリョーシャ」のきたのをひどく喜びました。

「お前むきのテーマだよ、お前のテーマだ!」と「アリョーシャ」をきき手役に座らせながら、彼は嬉しそうに笑いました。

「羊肉などとおっしゃいますが、それは違います。そういうことをしたからといって、べつに地獄でそうなるわけのものでもございませんし、公正に申しますなら、そんな目に会うはずもございませんですよ」と「スメルジャコフ」がしかつめらしく言いました。

「公正に申しますならってのは、どういうことだ」と「フョードル」が膝で「アリョーシャ」とつつきながら、いよいよ楽しそうに叫びました。

「人でなしめ。こういうやつなんだ!」ふいに「グリゴーリイ」が口走りました。

そして、彼は怒りにもえて、まともに「スメルジャコフ」の目をにらみつけました。

「ちょうどこのとき、アリョーシャが入ってきた」と書かれていますが、彼が入って来てすぐに「フョードル」は座るようにうながし、コーヒーやリキュールをすすめ、「バラムの驢馬」が「たいそう弁ずること、弁ずること!」などと言っています。

実は「スメルジャコフ」が弁ずるのは、「アリョーシャ」が席についてからであり、彼も「スメルジャコフ」の話を聞いていることを前提にしていますので、ここでの「フョードル」の発言はおかしいですね。

「スメルジャコフ」は殺すとおどされたらキリストの名を否定してもいいと言っています。


これは、難しすぎる問題です。


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