「おい、イワン!」と、ふいに「フョードル」が声をかけました。
「ちょっと耳をかせよ。あれはみんなお前のためにやっているんだぞ、ほめてもらおうと思ってさ。ほめてやれよ」
ここには「フョードル」が気付いている「スメルジャコフ」と「イワン」の関係について暗示的に語っています。
「イワン」は父親の悦に入った言葉を、しごく大まじめにききとりました。
「待て、スメルジャコフ、ちょっと黙ってろ」と、また「フョードル」が叫びました。
「イワン、もう一度耳をかせよ」
「イワン」はまた、しごく大まじめな顔で身を傾けました。
「俺はお前を、アリョーシャと同じように好きなんだ。俺がきらってるなんて思わんでくれよコニャックはどうだ?」
「いただきましょう」
『そんなこと言ったって、自分はすっかり酔払ってるじゃないか』と「イワン」はまじまじと父を眺めました。
そして、「スメルジャコフ」のことは、極度の好奇心とともに観察していました。
「お前は今だって呪われた破門者だよ」と、「グリゴーリイ」がかっとなりました。
「あんなことをぬかしたあとで、よくも四の五の理屈をこねられるもんだな、かりに、だよ・・・」
「そう悪態をつくな、グリゴーリイ、悪態はよせ!」と「フョードル」がさえぎりました。
「グリゴーリイ」が「フョードル」に「悪態はよせ!」なんて言われ、立場が逆転したかのようです。
話を振り分けて司会役をつとめようとする「フョードル」としてはここで「イワン」の発言を聞きたいのでしょうが、そうはさせてもらえません。
「ちょっと待ってくださいよ、グリゴーリイ・ワシーリエウィチ、ほんのしばらくの間で結構ですから、話のつづきをきいてください、まだ終ってないんですから。というわけで、わたしがただちに神さまに呪われたとたん、まさにその最高の瞬間に、わたしはもう異教徒と同じになって、洗礼も解かれ、何事にも責任がなくなってしまうんですよ、せめてこの辺くらいは間違っていないでしょう?」
「結論を言えよ、おい、早く結論を言え」と、さもうまそうにグラスを傾けながら、「フョードル」はせっつきました。
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