「行ってきます。ここで待っててくれる?」と「アリョーシャ」。
「そうしよう。すぐにはむりってことはわかっている。入っていって、いきなり話をぶつけるわけにもいかんしな。親父はいま酔払ってるし。三時間でも、四時間でも、五時間でも、六時間でも、七時間でも待つさ。ただ、忘れるなよ。たとえ、真夜中になろうと、お前は今日のうちに、金のあるなしにかかわらず(一二文字の上に傍点)、カテリーナのところへ行って、『兄がよろしく申しました』と言うんだぞ。俺はぜひともお前に、その言葉を言ってもらいたいんだ。『よろしく申しました』とな」
「兄さん!でも、ひょっこりグルーシェニカが今日やってきたら・・・今日じゃなくとも、明日か、あさってあたり?」
「グルーシェニカが?見張ってるから、張りこんで邪魔してやるさ・・・」
「でも、もし・・・」
「もしそうなったら、ぶち殺してやる。そのまま引きさがれるかい」
「殺すって、だれを?」
「爺をさ。あの女は殺さんよ」
「兄さん、なんてことを言うんです!」
「でも、わからんよ、わからんさ・・・ひょっとしたら、殺さんかもしらんし、あるいは殺すかもしれない。心配なのは、まさにその瞬間になって、ふいに親父の顔が憎くらしくなりそうなことさ。俺はあの咽喉仏や、鼻や、眼や、恥知らずな薄笑いが、憎くてならないんだ。個人的な嫌悪を感ずるんだよ。そいつが心配なのさ。どうにも我慢できそうもないからな・・・」
「じゃ、行ってきます、兄さん。そんな恐ろしいことが起らないよう、神さまがうまく取りはからってくれますよ、僕は信じてます」
「じゃ、俺はここに腰をおろして、奇蹟を待つとしよう。でも、もし奇蹟が起らなかったら、そのときは・・・」
「アリョーシャ」はものおもわしげな様子で父のところに向かいました。
ふたりは、父の家の隣の庭で話をしているのですから、「アリョーシャ」の向かう先はすぐ近くですね。
この長い「ドミートリイ」の話の中で、いちばん彼が言いたかったのは、「カテリーナ」によろしくと伝えることでした。
これは、たぶん過去の自分に決着をつけたかったからでしょう。
これから先、自分は生きることになるか、死ぬかわからない、いずれにせよその決断をし、前に進むために、過去を殺すことが必要なのでしょう。
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