2017年4月20日木曜日

385

十 二人の女が同時に

「アリョーシャ」は、先ほど父のところに入っていったときにもまして、いっそう打ちのめされ、押しひしがれた気分で、父の家を出ました。

そうです、少し前には隣家の庭にいて「じゃ、俺はここに腰をおろして、奇蹟を待つとしよう。でも、もし奇蹟が起らなかったら、そのときは・・・」と言って別れた「ドミートリイ」が父の家に乗り込んで来るなんてことは思ってもみませんでしたし、ましてや暴力沙汰になるなんて。

彼は「ドミートリイ」のために「フョードル」から三千ルーブルを借りるという話をするつもりでしたが、そんなことは当然吹っ飛んでしまいました。

思考力もなにか粉々に砕けて散逸したかのようでしたが、同時にその反面、散逸したものをまとめて、この日経験したいっさいの苦しい矛盾から一つの共通な観念を取りだすのがこわいような感じもしていました。

「アリョーシャ」の心にかつてなかったような、何か、ほとんど絶望と隣合わせのものがありました。

どれひとつをとっても事態は少し前より悪い方向へ行っていますね、どうなっても穏便に解決するということはありえないと思います。

あの恐ろしい女性をめぐる父と兄「ドミートリイ」の確執がどんな形で終るのかという、いちばん主要な、宿命的な、解きがたい疑問が、あらゆるものの上に山のようにそびえていました。

今や、彼自身が目撃者でした。

彼自身その場に居合せ、にらみ合う二人を見たのでした。

しかし、不幸な人間に、まるきり恐ろしく不幸な人間になってしまう可能性のあるのは、兄「ドミートリイ」だけでした。

兄は疑いもなく災厄につけねらわれていました。

そしてまた、ほかの人たちも、これらすべてに関わりが、それもおそらく「アリョーシャ」がこれまで考えていたよりずっと深い関わりをもっていることがわかりました。

何か謎めいた雲行きにすらなってきました。

兄の「イワン」は彼に一歩あゆみよってきました。

それは、「アリョーシャ」が久しく望んでいたことではありますが、彼自身なぜか今や、この接近の一歩が自分を怯えさせたのを感じていました。

それなら、あの二人の女性は?

ふしぎなことに、先ほど「カテリーナ」のところに向おうとしたときには、極度のとまどいを感じていたのですが、今はまったく感じもせず、むしろ反対に、彼女のところに行けば指示を仰げると期待するかのように、みずから急いでいるのでした。

だが、しかし、兄の頼みを彼女に伝えるのは、今や明らかに先ほどよりいっそうむずかしいことでした。

三千ルーブルの件はすっかりだめになりましたので、兄「ドミートリイ」は今では自分を恥知らずな人間と感じて、もはや何の希望もないまま、どんな堕落を前にしてももちろん踏みとどまらぬにきまっていました。


そのうえ、兄はつい今しがた父のところで起こした騒動のことまで、「カテリーナ」に伝えるように言いつけたのでした。


0 件のコメント:

コメントを投稿