「アリョーシャ」は、明らかに今しがたまで人が坐っていたと思われるソファの上に置きすてられた絹のケープや、ソファの前のテーブルに置かれた飲みかけのチョコレートの茶碗二つ、ビスケット、青い乾ぶどうを入れたカットグラスの皿、キャンディを入れた別の皿などを、しげしげと眺めました。
だれかをもてなしていたところなのでした。
「アリョーシャ」は客とかち合ったことに思いあたり、眉をひそめました。
が、そのとたん、戸口の厚いカーテンがあがり、嬉しそうな喜びの微笑をうかべた「カテリーナ」が、両手を「アリョーシャ」にさしのべながら、せわしい急ぎ足で入ってきました。
と同時に女中が火のともった蝋燭を二本運んできて、テーブルに置きました。
ここでは部屋の中の様子が詳しく書かれていますが、蝋燭二本の光だと今からだと想像がつきにくいくらい暗いでしょう。
「よかったこと、あなたもとうとういらしてくださいましたのね!あたくし、一日じゅうあなたのことばかり神さまにお祈りしておりましたのよ!おかけ遊ばせ」
「カテリーナ」の美貌は、これまでにもすでに、三週間ほど前、「カテリーナ」自身のたっての願いで、兄「ドミートリイ」が「アリョーシャ」を引き合せ紹介するためにはじめて連れてきたとき、彼の心を打ったものでした。
もっとも、初対面のその時は、二人の間に話ははずみませんでした。
「アリョーシャ」がひどくはにかんでいるものと考えて、「カテリーナ」は彼にお目こぼしをかけるかのように、そのときは始終「ドミートリイ」と話していました。
「アリョーシャ」は沈黙こそしていましたが、いろいろのことを非常によく観察できました。
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