「あなたのお耳に入れておかなければならないことがあるんです。」これもふるえ声で「アリョーシャ」が言いました。「今しがた、兄と父との間にあったことですが」そして彼は騒動の一部始終を話しました。
自分がお金を頼みに行かされたこと、そこへ兄がとびこんできて、父を殴り倒し、そのあとで特にくどいほど、「アリョーシャ」にもう一度《よろしく》言いに行くように頼んだこと、などを話しました。「兄はあの女のところへ行ったんです・・・」と、「アリョーシャ」は小さな声で付け加えました。
先ほど「ドミートリイ」はたしかに興奮の最中に「この騒動を話してやれよ」と「アリョーシャ」に言っていましたが、このみっともない騒動は彼の思い違いからはじまったことで彼の恥でもあるので「アリョーシャ」がそんなに詳しく話すとは思ってもみませんでした。
「じゃあなたは、あたくしにはあの女性が我慢ならないとでも思っていらっしゃるの?お兄さまも、あたくしが我慢できないと思ってらっしゃるのかしら?でも、お兄さまはあの人とは結婚しませんわ」と、ふいに彼女は神経質に笑いくずれました。「ほんとにカラマーゾフともあろう方が、ああいう欲望にいつまでも燃えていられるものでしょうか?あれは愛情ではなく、欲望ですわ。お兄さまは結婚しません、なぜって彼女のほうがお嫁に行きませんもの・・・」ふいに「カテリーナ」はまた奇妙な笑い方をしました。
「ほんとにカラマーゾフともあろう方が、ああいう欲望にいつまでも燃えていられるものでしょうか?」と言う「カテリーナ」の発言はどう捉えたらいいでしょうか。
(313)で書いたのですが「カラマーゾフ」的ということは、①厚顔無恥の恥知らず、②色好み、③卑しい情欲、④神がかり行者、⑤愚か、⑥正直、⑦強欲などのイメージですが、「カテリーナ」は「アリョーシャ」のことを考えてなのか、好意的な言い方をしています。
あえていえば、「カテリーナ」の言う「ああいう欲望」とは、②色好み、③卑しい情欲、⑦強欲でしょうか。
この「カラマーゾフ」的な要素の中で、「ドミートリイ」の中の好意的に解釈できるものは⑥正直だけのような気がします。
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