老人はぎょっとして跳ね起きました。
つまり、「フョードル」は話している途中で急に「アリョーシャ」の様子がおかしくなったので、驚いてソファーから立ち上がったのですね。
「フョードル」が母親の話をはじめたその瞬間から、「アリョーシャ」の顔つきが少しずつ変わってきていました。
顔が赤くなり、眼が燃え、唇がふるえはじめました・・・酔った老人はしきりに唾をとばしてまくしたて、その瞬間まで何も気づかなかったのですが、突然「アリョーシャ」の身に何やらきわめて異様なことが生じていました。
ほかでもない、たった今老人が《癲狂病み》について話したのと同じことが、そっくり再現されたのです。
「アリョーシャ」は突然テーブルの前から跳ね起き、今の話で母がやったのとそっくり同じに、両手を打ち合せてから、顔を覆い、なぎ倒されたように椅子に倒れるなり、そのまま、身を揺さぶる突然の、声もない涙のヒステリックな発作に、ふいに全身をふるわせはじめました。
異常なほどの母親との相似がとりわけ老人をおどろかせました。
「フョードル」の話の中で「ソフィヤ」は「跳ね起きて、両手を打ち合せたあと、いきなり両手で顔を覆って、全身ふるえはじめ、床に倒れるなり・・・そのまま気絶しちまったんだ」ということでしたので、全く同じですね。
これは、限界を超えた怒りのある種の表現でしょう。
そして、「アリョーシャ」が自らの観念の中で作り上げてきた母親像に対する異常なまでの愛情のために、行動が完全にその像と同調したのでしょう。
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