彼は目を伏せて、考えこみました。
「そう、俺は卑劣漢だ!疑いもなく卑劣漢だよ」と、ふいに彼は暗い声で言いました。「あのとき俺が泣こうと泣くまいと、変りはないんだ、どのみち卑劣漢なんだらからな!あの人のところへ行ったら伝えてくれ、もしそれが気休めになるんなら、俺は卑劣漢よばわりも甘んじて受けるとな。が、もういい、さよなら、何を話すことがある!楽しいことなんぞありゃしないんだ、お前は自分の道を行け、俺は俺の道を行く。それに、もう会いたくもないよ、いよいよ最後の何かの瞬間までな、さよなら、アリョーシャ!」
「ドミートリイ」はもうあちらの世界へ行くことを決心していますから「俺は俺の道を行く」と行っているのです、そして、こちらの世界であんなにも愛していた弟の「アリョーシャ」とももう会わないと言っています。
しかし、それは「いよいよ最後の何かの瞬間までな」と言っていますので、少しはこちらの世界にも未練があるのでしょう、「最後の瞬間」だけも別物です。
彼は「アリョーシャ」の手を固く握りしめると、相変わらず目を伏せ、うなだれたまま、身をふり離すように、急ぎ足に町の方に歩きだしました。
「アリョーシャ」は、兄がこんなふうにまるきり突然行ってしまうのが信じられぬ思いで、うしろ姿を見つめていました。
「ドミートリイ」の行動もいつもながら突飛ではありますが、ここで「アリョーシャ」も「アリョーシャ」で引き止める素ぶりさえみせていませんね。
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