「パイーシイ神父」は出ていきました。
たとえあと一日が二日生きのびるかもしれぬにしても、長老が世を去ろうとしていることは、「アリョーシャ」にとって疑念の余地もありませんでした。
「アリョーシャ」は、父や、ホフラコワ家の人たちや、兄や、「カテリーナ・イワーノヴナ」と会う約束をしたものの、明日は修道院から一歩も出ずに、息を引きとるその時まで長老の枕辺に付き添っていようと、熱っぽい気持で固く決心しました。
心が愛に燃えました。
明日「アリョーシャ」が会わなければならないのは、①父、(380)で例の実家での大騒動の後、「アリョーシャ」が「フョードル」と二人になった時の会話で「・・・明日の朝早くぜひ俺のところへ寄ってくれ。明日お前に話しときたいことがあるんだ。寄ってくれるな?」と「フョードル」は言い、「アリョーシャ」は「寄ります」と答えています。
②ホフラコワ家の人々は、196)「ゾシマ長老」は「リーズ」に「必ず行かせますよ」と断を下しました。
③兄は「イワン」と「ドミートリイ」のふたりと約束しています。
「イワン」とは(382)で門のわきのベンチに座っている兄の「イワン」から「アリョーシャ、明日の朝早くお前に会えると、実に嬉しいんだがね」と言われています。
その時に「アリョーシャ」は「明日はホフラコワさんにお宅に伺うもんで」と言って一応断ってはいますが。
「ドミートリイ」は(411)で突然去っていく「ドミートリイ」に「アリョーシャ」は『そうだ、明日必ず会って、ききだそう。いったい何のことを言っているのか、ことさら探りを入れてみよう!・・・』と思います。
④「カテリーナ・イワーノヴナ」は(403)で「お帰りになって、アレクセイ・フョードロウィチ!あたし恥ずかしい、恐ろしい!明日また・・・おねがいですから、明日いらしてください。あたしを咎めないで、許してください。このうえ自分の身に何をしでかすか、わかりませんもの!」と言っています。
このように「アリョーシャ」は少なくとも明日四人と会う約束をしていたのですね。
この世のだれよりも敬っている人を、修道院で臨終の床に置き去りにし、たとえ一瞬とはいえ、町の中でその人のことを忘れていられた自分を、彼は苦々しく責めました。
彼は長老の寝室に行き、ひざまずくと、眠っている長老に対して、額が地面につくほど深々とおじぎしました。
長老はほとんどわからぬくらいの、規則正しい寝息をたてながら、身じろぎもせず、静かに眠っていました。
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