2017年5月23日火曜日

418

「リーズ」の手紙文の途中からです。

あたしの秘密はあなたに握られてしまいました。明日、おいでになるとき、どんなふうにあなたを見ればよいのか、わかりません。ああ、アリョーシャ、もしまた、ばかみたいに我慢しきれずに、あなたを見てさっきのように笑いだしたりしたら、どうすればいいのでしょう?あなたはきっと、あたしをいやらしいからかい屋とおとりになって、この手紙なぞ信じてくださらないでしょうね。ですから、おねがいです、もし、あたしに同情してくださるのでしたら、明日入っていらっしゃるとき、あまりまともにあたしの目を見つめないでください。だって、あなたの目と合うと、きっとあたし、ふいに笑いだすかもしれませんもの。おまけにあなたはあの長い僧服を着てらっしゃるでしょうし・・・それを思うと、今でさえ身体じゅう冷汗が出る思いです。ですから、入っていらっしゃるときには、しばらく全然あたしを見ないで、お母さまか窓をごらんになっていてください・・・
とうとうあたし、ラブ・レターを書いてしまいました。ああ、なんということをしてしまったのでしょう!アリョーシャ、あたしを軽蔑しないでください。もし、あたしが何かとてもいけないことをして、あなたを悲しませたとしても、どうか赦してください。今や、あたしの、ことによると永久に台なしになったかもしれない評判の秘密は、あなたに握られているのです。
あたし、今日はきっと泣いてしまいます。さようなら、恐ろしい(4文字の上に黒点)ご対面のときまで。リーズ。
追伸 アリョーシャ、ただ、必ず、必ず、必ずいらしてください!リーズ』

これで手紙は終りですがこの手紙はいつ書かれたのでしょう。

「ゾシマ長老」が「アリョーシャ」同席のうえ「ホフラコワ夫人」と「リーズ」に祝福を与えたのが正午ごろです。

夕方過ぎ「アリョーシャ」が「カテリーナ」の家を出てから、お昼にあずかっていたというこの手紙を渡されました。

ここでは書かれてはいませんが、「ホフラコワ夫人」と「リーズ」は「カテリーナ」の家で遅めの昼食をとったと仮定すれば、「リーズ」がこの手紙を書く時間はないのではと思いますが、手紙の文中には「あなたを見てさっきのように笑いだしたりしたら・・・」という文章がありますので前日に書いたのではないですし、短い時間でさっと書いたのかもしれません。

それにしても、「リーズ」は僧服を見てさえおかしいのですね。

この様子だとまた笑ってしましそうに思います。

「アリョーシャ」はおどろきとともに読み終え、二度通読してから、ちょっと考え、ふいに静かに楽しそうに笑いだしました。

びくりと身ぶるいしそうになりました。

今の笑いが罪なものに思えたのです。

だが、一瞬して彼はまた同じように静かに、幸せそうに笑いました。

ゆっくり手紙を封筒にしまい、十字を切って、横になりました。

心の動揺がふいに去りました。

「アリョーシャ」は手紙を読んで何か思い、そして笑い、その笑いが罪なものだったので動揺しています。

彼は一体何を思ったのでしょう、この手紙を読む限りでは「リーズ」の気持ちの一途さ、率直さ、無邪気さ、子供っぽさのようなことが伝わりますが、彼女は彼女なりに一生懸命なわけですので、その気持ちの切実さを笑うことではないと思ったのでしょうか。

それとも、隣の部屋で昏睡状態の陥っている「ゾシマ長老」のことを思い、笑うこと自体を反省したのでしょうか。

『神さま、先ほどの人たちをみな、お憐れみください。不幸な、落ちつかぬあの人たちを守って、道をお示しください。あなたは道をご存じです。あの人たちに道を示して、お救いください。あなたは愛です。みなに喜びをお授けください!』


十字を切り、安らかな眠りに沈みながら、「アリョーシャ」はつぶやきました。


それにしても、「リーズ」は明日は「必ず、必ず、必ずいらしてください」と書いており、「明日は修道院から一歩も出ずに、息を引きとるその時まで長老の枕辺に付き添っていようと、熱っぽい気持で固く決心」した「アリョーシャ」はどうするのでしょう。


これでともかく、「フョードル」一行の修道院訪問からはじまった長い、長い、長い一日が終わりました。




0 件のコメント:

コメントを投稿