「ホフラコワ夫人」は、この新たに実現した《予言の奇蹟》を修道院長はじめ修道士たち全員にただちに伝えてくれるよう、熱っぽい調子で強引に「アリョーシャ」に頼んでいました。
『これは一人残らずみんなに知らせなければなりません!』–手紙の結びで、彼女はこう絶叫していました。
手紙は心せくまま大急ぎで書かれたため、書き手の興奮がどの行にもひびいていました。
だが、もはや「アリョーシャ」が修道士たちに知らせるべきことは、何もありませんでした。
みながもう一部始終を知っていたからです。
それというのも「ラキーチン」が、「アリョーシャ」の呼びだしを修道僧に頼んだとき、それ以外にさらに、「まことに恐縮ですが、パイーシイ神父に、僕、つまりラキーチンが、ちょっと用があるとお取次ぎいただけないでしょうか、ただ、きわめて重大なことなので、一刻もご報告を遅らせるわけにはいかないのです。失礼の段は深くお詫びいたします」と、頼んだのです。
そして修道僧が「ラキーチン」の頼みを、「アリョーシャ」より先に「パイーシイ神父」に取り次いだため、自席に戻った「アリョーシャには、ただ手紙に目を通して、すぐにその内容を単なる参考資料という形で「パイーシイ神父」に伝えるくらいしか、やることは残っていませんでした。
ということは、「ラキーチン」は手紙の内容を「ホフラコワ夫人」から知らされていたのですね。
「ホフラコワ夫人」はその手紙を「ラキーチン」にたくして「アリョーシャ」に届けようとしたのですから、それがどういう意味を含むかは「ラキーチン」はわかっていると思うのです。
つまり、このおめでたい知らせを「アリョーシャ」から「パイーシイ神父」や修道士たちに知らせるようにしたかったのです。
そうでなければ、わざわざ「アリョーシャ」に手紙を書く必要もなく、「ラキーチン」にそのことを口頭で修道院に伝えるように頼んだはずです。
しかし、目立ちたがり屋の「ラキーチン」は、そうはさせなかったのですね。
だが、この峻厳な、容易に人を信じない神父でさえ、眉根をよせて《奇蹟》の知らせを読み終えると、ある種の内心の感慨を抑えることができませんでした。
目がきらりと光り、口もとがふいに重々しい、感に堪えぬような微笑にほころびました。
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