2017年6月10日土曜日

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「なるほどあいつは金をせびりはしない、それにどのみち俺からはびた一文ももらえっこないしな。俺はな、アレクセイ、できるだけ長生きするつもりなんだ。このことは承知しておいてもらいたいね。だから俺には一カペイカの金だって必要なのさ。長生きすればするほど、ますます金は必要になってくるしな」夏物の黄色い麻で作った、ゆるやかな、垢光りのしているガウンのポケットに両手を入れたまま、部屋を隅から隅へ歩きまわりながら、彼は続けました。「現在のところ俺はとにかく男で通用する。まだ、やっと五十五でしかないからな。だが、俺はあと二十年くらいは男として通用したいんだ。そうなると、年をとるにつれて、汚らしくなるから、女たちは自分から進んでなんぞ寄りつきゃしなくなるだろう、そこで金が必要になるというわけさ。だからこそ俺は今、自分だけのために少しでも多く貯めこんでいるんだよ、アレクセイ、わかっといてもらいたいね。なぜって俺は最後まで淫蕩にひたって生きつづけたいからさ、これも承知しておいてもらいたいな。淫蕩にひたっているほうが楽しくていい。みんなはそれを悪しざまに言うけれど、だれだってその中で生きているのさ、ただ、みんなはこっそりやるのに、俺はおおっぴらにやるだけだよ。この正直さのおかげで、世間の醜悪な連中に攻撃されるけどな。アレクセイ、俺はお前の天国なんぞ行きたくないね、これは承知しといてもらいたいが、かりに天国があるとしたって、まともな人間なら天国とやらへ行くのは作法にはずれとるよ。俺の考えでは、寝入ったきり、もう二度と目をさまさない、それで何もかもパアさ。供養したけりゃ、するがいいし、したくなけりゃ、勝手にしろだ。これが俺の哲学だよ。昨日イワンがここでたいそう弁じたてたぜ、もっとも二人とも酔払ってたけど。イワンはほら吹きだな、何の学もありゃせん・・・それに格別の教養もないし。むっつり黙って、無言のまませせら笑ってやがる・・・それがあいつの手なんだ」

これを読むと何が正義がわからなくなります、

「フョードル」は①できるだけ長生きしたい②そのためにお金が必要③あと20年くらい男として通用したい④最後まで淫蕩にひたって生きつづけたい⑤みんなそんなことを隠している、ということですね。

つまり、「フョードル」の価値観は「淫蕩」第一主義で、たいへんわかりやすいです。

そして、みんなそうであり、そのことを隠しているだけだと。

そう言われればそんな気もするのですが、少し違うような気もします。

「フョードル」はいずれ自分の考え方を変えなければ、自分だけの問題ではなくなり、まともに生きていけなくなるんではないでしょうか。

ただ「フョードル」が自分に正直であることは確かで、そう言った意味では「イワン」の方が不実であることになります。

「アリョーシャ」は黙ってきいていました。


「なぜあいつは俺と話をせんのだ?話をするかと思や、もったいぶったことばかり言ってやがる。卑劣な男だよ、イワンてのは!俺がその気にさえなりゃ、今すぐにでもグルーシェニカと結婚してみせるぞ。なにしろ金さえ持ってりゃ、何を望もうと思いのままだからな。イワンのやつは、それが心配で、俺が結婚しないように見張ってやがるんだし、そのためにミーチャをけしかけて、グルーシェニカと結婚させようとしてるのさ。そうやって、グルーシェニカから俺を守りぬき(まるでグルーシェニカと結婚しなけりゃ、俺があいつに金でも残してやるみたいじゃないか!)、その反面、ミーチャがグルーシェニカと結婚したら、イワンのやつは金持のいいなずけをいただこうって寸法だ。たいした計算じゃないか!イワンてのは卑劣な男だよ!」


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