2017年6月25日日曜日

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「まあ、結婚だなんて、リーズ。どういうわけでそんなことを。まるきり時と場合もわきまえないで・・・その子供が恐水病かもしれないといういうのにさ」

「あら、ママ!恐水病の子供なんて、本当にいるの!」

「いますともさ、リーズ、まるであたしがばかなことでも言ったみたいね。子供が狂犬に嚙まれると、その子が恐水病になって、今度はまわりの人に嚙みつくのよ。あら、リーズがずいぶん上手に繃帯をしたじゃございませんか、アレクセイ・フョードロウィチ、あたくしにはとてもこんなふうにできませんわ。今でも痛みは感じますか?」

私は「恐水病」という病気は知りませんでしたが、ネットで調べましたら「狂犬病」とともに次のような症状の説明がありました。

「イヌにかまれてから早ければ10日、おそいと半年くらいたって、かまれた傷あとから、からだの中心にむかって放散する痛み、食欲不振、不眠、唾液の過剰分泌(かじょうぶんぴつ)などで発病します。2~3日たつと興奮しやすくなり、風、光、音、水などの刺激に過剰に反応し、のどから胸にかけての筋肉がけいれんをおこします。しまいには、水を見ただけでこわがり、のどの筋肉がけいれんをおこします(恐水病の病名の由来)。やがて、けいれんの発生が少なくなってまひ期に入り、発病後3~5日で呼吸まひで死亡します。」

「今はもう、ほんのちょっとです」

「水はこわくない?」と、「リーズ」がききました。

「いい加減になさい、リーズ、実際のところあたしもひどくあわてたばっかりに、恐水病の子供のことなんか言ってしまったかもしれないけれど、あなたときたら、すぐにそんな結論を出すんだから。あのね、アレクセイ・フョードロウィチ、あなたのいらしたことを知るとすぐ、カテリーナ・イワーノヴナがあたくしのとこへ飛んでらして、そりゃもうお待ちかねですのよ」

「ああ、ママ!あっちへはママ一人でいらしてよ、この人は今すぐなんか行かれないわ、痛みがひどいんですもの」

「全然痛くありませんよ、行かれますとも」と、「アリョーシャ」は言いました。

「まあ!それじゃ行っておしまいになるの?そうなのね?そう?」

「どうなすったんです?だって向うでの話がすんだら、また来ますよ。そしたら、あなたの気のすむまで、またお話できるじゃありませんか。それに僕は、いずれにせよ今日はできるだけ早く修道院へ帰りたいものですから、カテリーナ・イワーノヴナにぜひ、なるべく早くお目にかかりたいと思いますし

「ママ、その人を連れて行って、早く連れて行ってちょうだい。カテリーナ・イワーノヴナのあとであたしのところに寄ろうなんて、ごむりをなさらずに、まっすぐ修道院へお帰りなさいな、アレクセイ・フョードロウィチ、それがあなたにふさわしい道だわ!あたし、眠くなっちゃった、一晩じゅう眠れなかったんですもの」

「ああ、リーズ、あなたときたら悪ふざけばっかり。でも、本当に眠れるといいけど!」と「ホフラコワ夫人」が叫びました。

「わからないな、僕のいったいどこが・・・なんだったら、あと三分ほどここにいましょう、五分だっていいですよ」と、「アリョーシャ」はつぶやきました。

「五分だっていい、ですって!こんな人早く連れて行ってよ、ママこんな人お化けだわ!」

まったくこれではまともに話ができませんね、最後には「お化け」と言われてしまいました。

「リーズ、気でも違ったの。さ、行きましょう、アレクセイ・フョードロウィチ、今日のこの子ときたら、あまり気まぐれがひどすぎますわ、この子を苛立たせるのが、あたしくこわくって。ああ、神経質な女には泣かされますわ、アレクセイ・フョードロウィチ!でも、本当に、あなたが付いていてくださったので、眠くなったのかもしれませんわね。ずいぶん早く眠気を誘ってくださいましたこと、とても助かりましたわ!」

「あら、ママ、ずいぶんやさしいことをおっしゃるようになったのね、ご褒美にキスしてあけるわ」

「あたしもよ、リーズ。あのね、アレクセイ・フョードロウィチ」と、「アリョーシャ」といっしょに部屋を出ながら、「ホフラコワ夫人」が秘密めかして、ものものしげに早口でささやきました。「べつにあなたに暗示を与える気はありませんし、秘密の帷(とばり)を上げるつもりもないんですけれど、今お入りになれば、あそこで起っていることがすべて、ご自分でおわかりになるはずですわ。恐ろしいことですわね、まさに幻想的な喜劇ですわ。あの人はあなたのお兄さまのイワン・フョードロウィチを愛してらっしゃるのに、自分はドミートリイさんを愛しているのだと必死に自分で思いこもうとしているのですもの。恐ろしいことですわ!あたくし、あなたとごいっしょに入って、もし追いだされなければ、終りまで待っていますから」


ホフラコワ夫人」は好奇心旺盛で「あなたとごいっしょに入って、もし追いだされなければ、終りまで待っていますから」と言っていますが、普通は退席すると思いますが何だか興味津々なのですね。


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