五 客間での病的な興奮
しかし、客間での話はもう終りかけていました。
「カテリーナ」は決意を秘めた顔つきをしてはいたものの、たいそう興奮していました。
「アリョーシャ」と「ホフラコワ夫人」が入っていったとき、「イワン」は帰ろうとして立ちあがるところでした。
顔がいくらか青ざめていたので、「アリョーシャ」は不安な気持で兄を眺めました。
ほかでもないが、「アリョーシャ」にとって今この場で疑惑の一つが–ある時期から彼を苦しめつづけてきた一つの不安な謎が、解けようとしているのでした。
すでにひと月ほど前から、「アリョーシャ」はもう何回にもわたってさまざまな方面から、兄の「イワン」が「カテリーナ」を愛しており、特に「ドミートリイ」から本当に彼女を《横取りする》つもりでいるという話を、吹きこまれていました。
この話は「アリョーシャ」をひどく不安がらせはしたものの、ごく最近まで突拍子もないものに思われていました。
彼はどちらの兄も愛していたので、二人の間のそうしたライバル関係を恐れました。
にもかかわらず、当の「ドミートリイ」がだしぬけに昨日、弟「イワン」がライバルであることをむしろ喜んでいるし、そのことは彼「ドミートリイ」をいろいろの面で助けてくれると、率直に告白したのでした。
何の助けになるのだろう?「グルーシェニカ」と結婚するうえでだろうか?だが、「アリョーシャ」はそんな事態を、ぎりぎり最後の絶望的なものと見なしていました。
ここまでは、「アリョーシャ」はそれを認めたくなかったのですが、兄「ドミートリイ」と弟「イワン」とが「カテリーナ」をめぐって三角関係ということではありませんが、一見そのような関係にあることは事実であり、現にこうして今目の前で「イワン」と「カテリーナ」が会って話しているということからしても認めざるをえないように思えてきています。
実際に「ドミートリイ」は「イワン」が「カテリーナ」と結婚することを望んでおり、自分は「グルーシェニカ」と結婚するつもりでいることも「アリョーシャ」は知っています。
しかし、「アリョーシャ」は不本意なのでしょう、納得できないようです。
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