ふたたび疲労をおぼえて、またベッドに横になった「ゾシマ長老」が、もう目を閉じるころになって、ふいに「アリョーシャ」のことを思いだし、呼んでくれるよう頼みました。
「アリョーシャ」はすぐに駆けつけました。
時間関係がわかりにくいのですが、いろんな出来事があった一日が終わり、その翌日になっているのですね。
物語は「第二部」となっています。
夜明け前に「アリョーシャ」は、ベッドから肘掛椅子に移りたいという長老に起こされ、懺悔や聖餐式や塗油式の後、長老が修道僧たちに最後の話をしている途中で「ラキーチン」が「奇蹟」を知らせる手紙を持ってやってきて、オブドールスクの修道僧と「フェラポンド神父」の話になっていました。
長老はみんなに話をしている最中でしたが、それが終わったのでしょう、「ふたたび疲労をおぼえて、またベッドに横になった」と続きます。
そのとき長老の枕もとにいたのは、「パイーシイ神父」と、司祭修道士「イォシフ神父」、それに見習い僧の「ポルフィーリイ」だけでした。
長老は疲労しきった目をあけて、食い入るように「アリョーシャ」を見つめ、ふいにたずねました。
「家族の者が家で待っておるのだろう?」
「アリョーシャ」は口ごもりました。
「お前に用事があるのだろう?昨日だれかに今日行くと約束したのではないかね?」
「約束しました・・・父と・・・兄たちと・・・それからほかの人たちにも・・・」
「そらごらん。必ず行くのだよ。悲しむのではない。お前のいるところでこの地上での最後の言葉を言い残すことなしに、わたしは死なんからの。その言葉はお前に言うのだ、お前に遺言するのだよ。お前にな。なぜならば、お前はわたしを愛してくれているからの。だから今は、約束した人たちのところへ行っておあげ」
出てゆくのはつらかったけれど、「アリョーシャ」はただちに言いつけに従いました。
だが、地上での最後の言葉を、それも特に自分への遺言としてきかせるという約束は、彼の心を感激でふるわせました。
町での用事を全部すませて、なるべく早く戻ろうと、彼は急ぎました。
ちょうどそこへ「パイーシイ神父」が、きわめて強烈な、思いがけぬ感銘を与えたはなむけの言葉を彼に送ったのでした。
それはもう、二人揃って長老の庵室を出たときでした。
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