「ドミートリイ」は家にいませんでした。
家主の家族たち–家具職人の老人と、その老妻、それに息子とは、うさんくさそうなとすら言える目つきで「アリョーシャ」を眺めました。
「これでもう三日も家をあけてらっしゃるからね、どっかへ出かけたんじゃねえですか」
「アリョーシャ」の執拗な問いに老人が答えました。
「アリョーシャ」は、老人が与えられた指示どおりに答えているのだとさとりました。
「グルーシェニカのところじゃないの、でなけりゃまたフォマーのところにでも隠れているのかな」という彼の質問に(アリョーシャはわざとこんな単刀直入な言い方をしてみたのだが)、家主の家族たちは怯えたように彼を見つめました。
「アリョーシャ」は場合によってはそんな言い方もできるんですね。
『してみると、兄さんを好きなんで、肩を持っているんだな』
「アリョーシャ」は思いました。
『それは結構だ』
やっと彼はオジョールアナヤ通りの、カルムイコワという平民の家を探しだしました。
通りに面して窓が三つしかない、古ぼけて傾きかけたちっぽけな家で、汚ない中庭がついており、その真ん中で牝牛が一頭だけ淋しそうに立っていました。
入口の土間へは中庭から入るようになっていました。
土間に入って左側に、家主の老婆が娘にあたる老女と暮していましたが、どうやら二人とも耳が遠いようでした。
二人とも耳が遠いという設定は意表をつかれました。
何度もくりかえして二等大尉のことをたずねると、一人のほうがやっと間借り人のことをきかれているのだとさとり、土間をへだてた向う側を指さし、純然たる百姓小屋の戸口を示しました。
二等大尉の住居は事実、ただの小屋でしかないことがわかりました。
「アリョーシャ」はドアを開けようとして鉄のノブに手をかけようとしかけましたが、そのときふいにドアの奥の異様な静けさにぎくりとしました。
しかし、「カテリーナ」の言葉から、退役二等大尉が家族持ちであることはわかっていました。
『みんな眠っているんだろうか、それとも、ひょっとすると、僕が来た気配をききつけて、戸を開けるのを待ち受けているのかもしれません。最初にまずノックするほうがよさそうだ』
彼はノックしました。
返事がきこえましたが、すぐにではなく、おそらく十秒はどたってからでした。
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